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Defense
放課後まで降りしきっていた雨は、部活が終わる頃になってようやく緩くなってきていた。
週末の練習試合に向けて部室でミーティングしてから、諏訪は唐渡と二人で職員室に鍵を置きに行った。
「色々大変だったみたいっすね」
「唐渡まで知ってんの」
先生たちに挨拶して部屋を出た後、唐渡は昨日は触れてこなかった話題を切り出してくる。
何か言いたげな視線を後輩たちから感じていたから、唐渡以外も聞きたくてソワソワしていたに違いない。
大変だったことを否定せずに苦笑する諏訪を横目に、唐渡は眉を寄せた。
「すげぇ勢いで噂回ってます。サッカー部だからって俺のとこに聞きに来る奴らがいるの鬱陶しくて」
「うわ、ごめ」
謝罪の途中で、大きな手に口を覆って止められる。諏訪は驚いて思わず足を止めた。
見上げた先では唐渡が静かに首を振っている。
その目は大会前のように据わっていて、異様な光を見せていた。
「佐藤先輩が戻ってきたらあっちに文句言うんで」
顔は笑っているのに、凄みのある低い声は唐渡が良くも悪くも本気の時のものだ。自分の方が先輩なのに気圧されそうになって、諏訪の口元は引き攣る。
「あ、あんまり責めないでやってくれ……色々あるんだ……」
「なんで副部長が庇うんすか。殴って良いのに」
「お前みたいに怒ってくれる奴がいるから、俺が怒る必要ないなって」
物騒なことを言ってくる唐渡を肘で小突いて苦笑した。
諏訪が怒りの瞬発力が遅いのか、それとも周りが早すぎるのか。とにかく怒る必要がないのは恵まれているのだと思うことにしている。
唐渡はいまいち腑に落ちない反応をしたままだったが、諏訪が歩き始めると隣をピッタリついてきた。
「代わりに怒ると言えば、金髪の一年と相当親しいんすね」
「なっ……なんで?」
金髪と聞くだけで涼しい目元や耳に光るピアス、温かい腕を思い出して心臓が跳ねた。
諏訪はあからさまに目をキョロキョロと泳がせてしまう。唐渡は面白くなさそうに唇をへの字に曲げていた。
「あいつ、副部長のためにDefenseしたって」
「え! 甘井呂、サッカーしたのか!?」
諏訪は、おそらくここ最近で一番興奮した声を上げた。二人しかいない廊下にグワンとこだまするほどの音量だった。
フォワードではなくディフェンダーなのは意外だな、などというところまで瞬時に考えていたのだが。
「いや、そっちじゃねぇっす」
「あ、はい」
唐渡にあっさり否定されてしまった。
「Defenseは、DomがSubを守ろうとする行為です。『俺のSubを泣かすな』って感じっすかね」
必要以上に暴力的な行為に出てしまったり、凶悪なGlareを放ってしまったりする状態のことだと、唐渡は説明してくれる。
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