贈り物

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 諏訪は目を輝かせた。もう外して家に置いてあるサッカーボールの飾りを思い出す。  なんとなく捨てられずにいたが、まさか甘井呂が代わりのものを贈ってくれるとは。 「……て、お前これ……」 「いいだろ」  いそいそと中を確認した諏訪の表情が微妙な色を醸し出すのを、甘井呂はニヤリと覗き込む。  諏訪は袋の中から、元々持っていたサッカーボールと同じくらいの大きさの飾りをつまみ上げた。 「バスケ? あえてのバスケットボール?」  黒い筋の入ったオレンジ色に輝くボールが、指の先で揺れている。  嫌いではない。諏訪はスポーツ全般が大好きだ。  しかし、常に持ち歩くスマートフォンにつけるものとしてはどうだろう。  甘井呂は楽しげに諏訪の様子を観察している。  何故、こんなところが年相応に子供っぽいのか。 「野球と迷ったけどな」 「サッカーに恨みでもあんのか!?」 「付けてくれないのか?」 「く……っ!」  わざとらしく眉を下げる様子は、自分の魅力を熟知している人間のそれだ。  甘井呂の行為はあざといが、貰ったものを突き返すなんてことが諏訪にできるわけがなかった。  壊さないように、大事にバスケットボールを握りしめる。 「つける、けど……!」  明日から「なんでバスケットボール?」と見られる度に友人たちにツッコまれるのが目に浮かぶようだ。 「貰いもんって言ったら次は『誰に?』て聞かれるんだよ全く……」 「甘井呂に貰ったって言えば良いだろ?」 「そうだけど。ったく、イタズラ成功って顔しやがって」  満足気に口角を上げる甘井呂に、諏訪はやれやれと肩をすくめる。  甘井呂は目を細め、改めて諏訪を抱きしめた。 「イタズラね。まぁいい。じゃ、また週末よろしく」 「ん……」  温もりに包まれると、何もかもどうでも良くなってしまう。頭に頬を寄せられるのを感じながら、諏訪も甘井呂の肩に額を擦り寄せる。  週末は二人でまた遊びに行けると、心を躍らせたのだが、 (週末……)  諏訪は突如、顔をガバッと上げた。 「悪い! 今週は練習試合だから土日休みねぇわ……!」  熱を持っていた甘井呂の目が、スンッと冷めてしまう。 「……俺はサッカーに恨みがある」 「ごめんって!!」  体を離した甘井呂は、水飛沫が立つのも気にせず乱暴に歩き始めてしまった。諏訪は両手を合わせて追いかける。  それでも拗ねてしまった手を捕まえると、しっかり握り返してくれた。
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