嫌か?

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 大きな手に頬を包まれて、緩やかに揉まれた。 「Good(良い子だ)」  褒められて、じわりと満足感が体に広がっていく。  Play中の甘井呂の言葉はいつもひとつひとつが丁寧で、諏訪を慈しんでくれる。 「次はCall(俺を呼んで)」  初めて与えられるCommandでも、自然と頭に入ってきて安心して従える。信頼関係が築かれていないと、難しいことだ。 「あま、いろ」 「翔」  深い声にやんわり訂正されて、胸が高鳴る。ただ名前を呼ぶだけなのに声が震えた。 「……、翔……」 「Good boy(よく出来ました)。今日からPlay中はそう呼べよ」  頬を紅潮させて嬉しそうな様子が見て取れて、諏訪は目尻を下げた。  幸せだ。幸せだ。  諏訪は瞼に降りてきている金髪に触れ、心の昂りで潤んだ目を真っ直ぐ甘井呂に向ける。 「じゃ、お前も……俺、大輝だよ」 「ん、大輝」  口元を綻ばせた甘井呂が耳を親指でくすぐってくる。身を捩っていると他の指が頬も撫でてくれたので、諏訪は自分から擦り寄った。 「かわいいな、大輝。Hug(抱きしめてくれ)」  満足げな甘井呂のCommandがいい終わるや否や、待ってましたとばかりに首に腕を回して抱き締める。甘井呂の肩に顎を乗せながら、ふわふわと頭にモヤがかかってくるのを感じる。 (なんだろ……気持ちいい……)  まるで眠りに落ちる直前のように、何も考えられない。自分一人では動けないような不思議な心地よさだ。 「OK(よし)、じゃあ……大輝?」 「ん……」  諏訪が焦点の定まらない目をしていることに気づいた甘井呂が覗き込んでくる。  心配そうな声が聞こえるが、諏訪は恍惚としたまま甘井呂に体を預けていた。 『早くCommandが欲しい』  思考が完全にその一点に支配されていた。 「しょう……コマンド……」 「もしかして、サブスペースか……?」 「さぶす……? こまんど……はやく、くれ」  舌がうまく回らず、熱い息が空回りする。甘井呂は目を細めて喉を鳴らした。  諏訪の腰にグッと手を当てると、ゆっくりとソファから立ち上がる。 「Stand up(立って)、ベッドの方行くぞ」 「はい……」
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