サブスペース

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サブスペース

 中学入学と共に買い換えたベッドがギシギシと音を立てている。  諏訪は、自室のベッドの上でのたうち回っていた。 (ききいきききいきす!! キス! しちまった!!)  プレイルームを出てから、諏訪は甘井呂の顔を見ることができなかった。家に帰ってからも、Play中のキスを思い出して勉強どころではない。  今日、諏訪は初めて「サブスペースに入る」という特殊な状態になった。それはSubが完全にDomの支配下に入り、軽い酩酊状態になることだ。  サブスペースに入ったSubは、Domのことしか見えなくなりDomの声しか聞こえなくなる。 (もうあの時のこと、とにかく気持ち良かったことしか覚えてないけど……っ)  柔らかい唇の感触や温もり、何度も名前を呼んでくれる優しい声。  それだけははっきりと覚えていて、思い出すだけで胸が爆発しそうなほど動いている。  なんとか冷静になって勉強しなければ、明日赤点を取ってしまうかもしれないというのに全く落ち着ける気がしない。 「ま、待てよ……もしかしたら、もしかしたらPlay中のキスって普通かもしんねぇしっ」  赤点をとってしまうと、夏の大会に出られなくなる。何があっても、そんなことは阻止しなければならない。  諏訪はなんとかキスを大したことではないのだと思い込もうとした。  だが口に出してしまうと、今度は言いしれぬ不安に駆られる。 (Play相手になら誰にでもキスするとか……あるのかな)  甘井呂が他の人と、と想像したら腹の中に石を詰め込まれたような感覚に陥った。  自分自身でもついていけないほど、感情がジェットコースターのように暴れ回る。  混乱しながらも、諏訪はスマートフォンを手に取った。現状を解決する一番早い方法は、Play経験の豊富な人に聞くことだ。  本当は甘井呂に聞ければいいが、照れ臭くて聞けたもんじゃない。「誰にでもする」と言われた時のショックも計り知れなかった。  連絡用アプリと睨めっこした諏訪は、「唐渡琥太郎」と書かれたアイコンをタップする。  第二性を持っていて、甘井呂と諏訪の関係を教えているのは唐渡しかいない。  テスト中に悪いが「今、少し電話できるか?」とメッセージを送ると、返事の代わりにすぐにコール音が鳴った。 「珍しいっ……てか、電話なんて初めてじゃないっすか? 副部長、なんかありました?」
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