サブスペース

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 スマートフォンを落としそうになりながらもなんとか電話に出た諏訪に、唐渡は心配そうな声で問いかけてくる。  諏訪は行動の早い後輩に感謝しつつ、ベッドに胡座をかいてどう聞いたものかと頭を掻きむしった。 「ぷ、Playのとこで……聞きたいことが」 「俺に? 知ってると思いますけど、あんま参考にはなんねぇっすよ」 「う、うん……あの、その……個人差もあると思うんだけど……プレイ中に、キスってする?」 「……………………」  妙な沈黙が流れる。  唐渡の返事を待つ間、モゾモゾと体を揺らす諏訪の顔は真っ赤に染まっていた。  変なことを聞いたのだろう。完全に困らせてしまったことが察せられる。 「したんすか」  たっぷり間をとった後、唐渡は低い声でそれだけを呟いた。  諏訪は慌てて口を動かす。 「い、いやそういうわけじゃなくて」 「キスのコマンド使ったんすか」 「や、俺じゃなくてな? 友だちがな!?」  取ってつけたような嘘の情報を慌てて口走ると、機械の向こうから唐渡の怪訝そうな相槌が聞こえてくる。 「はぁ。じゃあそういうことにしますけど……Play中のキスが嫌だったって話っすか」 「嫌ってわけじゃ……コマンドつかわれたわけでもなくて。その、サブスペース入っててわけわかんなくて……いや、わけわかんなかったらしくて」  状況を思い出しながら必死に言い募っていると、唐渡が息を飲む。 「サブスペース……すげぇ……」 「え?」  心の底から感嘆するような声色を聞いて、諏訪は首を傾げた。サブスペースは教科書にも載っているような用語なのに、珍しいのだろうか。  だがその疑問は解決することなく、唐渡は話を流してしまった。 「なんでもねぇっす。で、副部長が聞きたいのは恋人でもパートナーでもない相手に、Play中キスはするかってことですよね」 「そうそうそう! そういうこと!」 「します! プレイ中のキスくらい普通!」  食いつくように首を縦に振っていると、唐渡も勢いよく答えてきた。聞いた途端に、上がっていた諏訪のテンションが急降下する。 「そ、そっか……普通か……」 「全然全く本当にたいした意味はないってお友達に伝えてください。なんか盛り上がってそういうことになるもんっす」 「ん……分かった……」
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