一回だけ

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 Sub drop常習犯である唐渡にも問題はあるが、辛辣すぎる。わざわざ他人と比べるのも意味がわからない。  しかも唐渡は自身の状況を分かっていて一度は断るといつも言っているから、そこを押してPlayしてもらったSubのはずだ。 (甘井呂といい唐渡といい……Domって頼られると断るのが苦手なやつ多いのかな……)  自分の意見ははっきりしてそうなのに最終的には折れてSubを甘やかしてしまう。その結果、自分の首を絞めることもあるのだから困った性質だと思う。 「流石に気にした方がいいでしょ。事実っすから」  立腹している諏訪に、唐渡は苦笑した。しゃがんで黒いスポーツバッグをゴソゴソと漁り始めた広い肩は、ガックリと落ちているように感じる。 「だから最近は、Playやめてます。佐藤先輩が最後だな……懲りた……」 「それ何ヶ月前だよ! 大丈夫なのか?」 「薬が効いてるからマシっす」  顔を上げた唐渡の手にはピルケースがあった。諏訪は甘井呂とPlay出来ていれば薬に頼る必要もないが、唐渡は部活中は感情が昂りやすいからと、毎日飲んでいる。  中には薬が効かなかったり体に合わずに飲めない人もいるため、本人の言うとおり「マシ」ではあるが。  唐渡が錠剤を口の中に流し込むのを見ながら、諏訪は同情の念が隠せない。 「ちなみにどんな感じっすか」 「えっ」 「甘井呂のPlay」  思いもよらない質問に、諏訪はワイシャツのボタンに触れている手を止める。見下ろした唐渡の目は、揶揄おうとか世間話をしようとか、そういう目ではない。  諏訪は今、後輩に真面目に相談されていると察する。  きちんと答えなければならないと、甘井呂とのPlayを頭に思い浮かべた。 「は、ハグしたり膝乗ったり……佐藤のことも抱きしめたりしてたしみんなにそうなんじゃないかな」  とにかく優しくて、声も表情も包み込んでくれる体温も、自分は大事にされているといつも感じる。  思い出すだけで鼓動が早くなり、体が熱って来るほどだ。 『またぎゅってして』  幸せな気持ちになってきたところで、部活前に見た光景が頭をよぎる。自分だけが特別ではない現実が再び押し寄せてきた。 「無理。よくそんなの好きじゃねぇ奴とできるなあいつ」
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