一回だけ

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 諏訪の揺るがない瞳から目を逸らした唐渡は、フッと小さく息を吐いた。 「いま、俺振られてますね?」  俯いてしまって表情は見えないが、声が震えている。諏訪も喉が張り付くように痛む。 「ごめんなさい」  それでも声を絞り出し、頭を下げた。  すると、唐渡がガバッと体をあげて抱きついてきた。 「慰めて」 「俺が!?」  大きな体に体重をかけられた諏訪は支え切れずに尻餅をつき、ロッカーに背中をぶつける。ガンッと乾いた音が部室に響いた。  痛みはほとんどないものの、すぐに離れようと腕に力を込める。だが、肩口から鼻を啜る音が聞こえて手を止めた。 (……このくらいはまぁ……先輩として……)  ごめんな、と頭を撫でた時。  ガチャっと部室のドアが開いた。 「…………」  立っていたのは、顧問の先生に相談があると言っていた林だった。  驚きすぎたのか、林は表情筋を動かさずに立ち尽くしている。  着替え途中で衣服が乱れた諏訪と、その諏訪に抱きついている唐渡を瞳に映して。  唐渡は顔を上げられないのかそのまま固まってしまい、諏訪は愛想笑いを浮かべるしかなかった。 「林、誤解だ」  一体、何が誤解だというのだろう。慌てるあまり謎の言葉を発してしまった自覚はあったが、この状況をどう説明して良いのかわからない。  林は何も言わずに部室のドアを閉め、自分のロッカーへと足を進めた。 「部室はプレイルームじゃねぇぞ」 「今回はなんもしてねぇっすよ!!」  ボソッと林が呟くと、唐渡が勢いよく声を上げたのだった。
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