62人が本棚に入れています
本棚に追加
諏訪の揺るがない瞳から目を逸らした唐渡は、フッと小さく息を吐いた。
「いま、俺振られてますね?」
俯いてしまって表情は見えないが、声が震えている。諏訪も喉が張り付くように痛む。
「ごめんなさい」
それでも声を絞り出し、頭を下げた。
すると、唐渡がガバッと体をあげて抱きついてきた。
「慰めて」
「俺が!?」
大きな体に体重をかけられた諏訪は支え切れずに尻餅をつき、ロッカーに背中をぶつける。ガンッと乾いた音が部室に響いた。
痛みはほとんどないものの、すぐに離れようと腕に力を込める。だが、肩口から鼻を啜る音が聞こえて手を止めた。
(……このくらいはまぁ……先輩として……)
ごめんな、と頭を撫でた時。
ガチャっと部室のドアが開いた。
「…………」
立っていたのは、顧問の先生に相談があると言っていた林だった。
驚きすぎたのか、林は表情筋を動かさずに立ち尽くしている。
着替え途中で衣服が乱れた諏訪と、その諏訪に抱きついている唐渡を瞳に映して。
唐渡は顔を上げられないのかそのまま固まってしまい、諏訪は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「林、誤解だ」
一体、何が誤解だというのだろう。慌てるあまり謎の言葉を発してしまった自覚はあったが、この状況をどう説明して良いのかわからない。
林は何も言わずに部室のドアを閉め、自分のロッカーへと足を進めた。
「部室はプレイルームじゃねぇぞ」
「今回はなんもしてねぇっすよ!!」
ボソッと林が呟くと、唐渡が勢いよく声を上げたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!