62人が本棚に入れています
本棚に追加
ごめん
諏訪は朝から憂鬱だった。
机に突っ伏して、昨日の自分が甘井呂に投げつけた言葉を思い出す。
(謝んないといけないのに……絶対俺が悪いのに……気まずくて声がかけられない……っ)
甘井呂がくれたバスケットボールの飾りをいじりながらスマートフォンと睨めっこする。
夜、部室を出て唐渡や林と別れてからずっとこの調子だった。
(会ったら、俺以外とPlayしないでくれって言っちゃいそうだし……でもスマホでゴメンだけ送るのもな……)
諏訪は、甘井呂の「特別」になりたかった。
頭を撫でるのもハグもキスも、微笑み掛けることさえ自分にだけしてほしい。
だがそんなことを、恋人でもなくパートナー契約も結べない状態で主張するのは躊躇われる。
ただでさえ、部活で忙しいからと予定を全て諏訪に合わせてもらっているのだ。
これ以上、縛り付けるのは気が引けた。
(言っちゃうか? 正直に全部……うーん……でも……それはそれで勇気が……)
「おい」
「んー……どうしよう……」
声を掛けられていることに気が付かず、机に頬をべったりくっつけてうなっていると。
「こっち向け」
「ぐぇ」
制服の襟首を掴まれて強制的に起き上がらされた。
無理矢理向かされた先では、真顔の美形がドアップになっている。
「…………わぁあ本物!」
諏訪はガタガタと椅子を倒して立ち上がった。それこそ教室中の生徒が何事かと振り返るほどのオーバーリアクションだったというのに。
甘井呂はいつものように笑ってくれず、全く表情が動かなかった。静かに諏訪を見下ろしているだけだ。
「話がある」
背筋が凍りそうな冷たい声。
やはり相当怒らせてしまったのだと、諏訪は指先が震えてしまう。
だが、自分は謝らなければならない。
ここで逃げたら、二度と話し合いの機会も与えてもらえないような気迫を甘井呂から感じた。
「お、俺も……」
消え入りそうな声で答えると、甘井呂は諏訪の手首を掴み大股で教室を出る。
不穏な空気を感じて立ち上がりかけた林を視線で制し、諏訪はおとなしく甘井呂に従った。
ずっと無言のまま辿り着いた場所は、式典などの前にしか開いているのを見たことがない部屋だった。
中は狭くて薄暗く、折り畳み式の机やパイプ椅子などが並んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!