ごめん

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 二人きりで話すには良い場所ではあるかもしれない。でも埃っぽい部屋に入った途端に鍵が掛かる音がすれば、相手が甘井呂であっても体が強張る。  諏訪は呼吸が苦しくなってきて胸に手を当てた。 (怖い……やっぱすごく怒ってるんだ……)  背後で甘井呂が近づいてくる気配がする。謝らなければと思うのに、雰囲気に飲まれて振り返ることができない。 「……っ!?」  諏訪が何かいう前に、甘井呂に肩を掴まれた。  強い力で甘井呂の方を向かされたかと思うと、壁に背中を押しつけられる。  痛みに顔を顰めて甘井呂を見上げれば、何を考えているのか分からない据わった瞳が見下ろしてきていた。 「俺のこと、要らなくなったか?」 「え?」  低い声の問いかけに、意味がわからず首を傾げる。諏訪にとって甘井呂は、いつだって必要な存在だ。  しかし答える前に、甘井呂は尋問でもするかのように質問を続けてくる。 「あの二年のDomと、昨日何やってたんだよ」 「か、唐渡……? 何って……別に……」  答えを間違えたら致命傷になりそうなのに、諏訪は唐渡の告白を思い出してうまく言葉を紡げなかった。顔に熱が集まってきて、歯切れの悪い返事になってしまう。  それが、甘井呂の中の何かを刺激したらしい。 「Kneel(跪け)」  脳に直接響くような命令がくだる。  諏訪は「そうしよう」と思う前に甘井呂の足元に崩れ落ちていた。  初めてだ。  甘井呂からのCommandに、心地よさを感じなかったのは。  恐る恐る顔を上げれば、冷ややかで獰猛な瞳が見下ろしてくる。 「あんたは俺のSubだろ」  低い声と共に高圧的なGlareが放たれた。  甘井呂は、有無を言わさずに諏訪を従わせようとしている。  頭のてっぺんから、どんどん血の気が引いていく。ガチガチと歯が鳴る。  告げられた言葉の意味も、諏訪にはもう分からなくなっていた。  甘井呂は諏訪が何も答えなくなったことに苛立ったのか舌打ちをし、床に膝をつく。強く顎を掴み、鼻先が触れそうな距離で睨みつけてきた。 「……っ」  反射的に身を引こうとするが、背後は壁だ。何も出来ないまま追い詰められる。 「そりゃ、あっちの方が一緒に居る時間も長いし、話も合うよな」 「そんなの」 「Shut Up(黙れ)」 「……っ」
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