ごめん

3/3
前へ
/80ページ
次へ
 喋っても喋らなくても甘井呂を怒らせてしまうようだ。  弁明もさせてくれる気はないらしい。  そもそも、甘井呂が怒っていることと諏訪が謝りたいことは何か微妙にずれている気がした。  なんとか呼吸だけはしようとするが、息苦しくて。  開けっぱなしになって乾いた唇に、甘井呂は噛み付くようにキスしてきた。 「……っ! んんっ!」  首を振っても胸を押しても、追いかけてきてにげられない。  まだCommandが解けておらず、声を出すことも出来ない。  この間はあんなに嬉しくて気持ち良かったのに、今は恐怖しか感じなかった。 「……は……! やめろ!!」  なんとかCommandに逆らって声を上げる。  渾身の力を込めて腕を振ると、甘井呂は一歩下がった。  互いの荒い息遣いが空気の澱んだ部屋で混ざる。  Commandに逆らうのも逆らわれるのも、DomとSubにとって精神的なダメージが大きい。  諏訪は耳鳴りがするほど頭が痛くなっていたが、甘井呂の顔色も悪くなっていた。  このままでは、双方にとっていいことがひとつもない。 「あまいろ、聞いてくれ……っ! まずはちゃんと話……っ」 「Crawl(這いつくばれ)」  有無を言わせぬ凄みのある声を聞いた諏訪は、両手を床につく。  重い石が背中に乗せられたように、体が下に下がっていってしまう。  このまま身を任せてしまえば、甘井呂は満足するし諏訪も楽なのかもしれない。そう頭をよぎるが、諏訪は腕に力を込めて顔を上げた。 「やだ……っ!『知らない』!!」 「……っ」  初めて言ったセーフワード。  きっと、甘井呂も言われたのは初めてだろう。  嫌な「初めて」のオンパレードだ。 「なんで、拒否するんだ」  握った手を震わせた甘井呂が喉の奥から絞り出すような声を出す。 「なんで他のDomには触らせるんだ……!」  悲鳴のような怒鳴り声が部屋を揺らす。  ずっと発されていたGlareがさらに重くなり、耐えきれなくなった諏訪の体は床に伏せた。 「あまいろ……」  自分の体温が下がっていくのを感じる。  四肢が上手く動かせない。  倒れた諏訪を見下ろす甘井呂は、いつもの涼しい顔が想像出来ないほどグシャリと歪んでいた。 (甘井呂、泣きそう……)  諏訪は怠い腕を僅かに上げて、甘井呂に手を伸ばそうとする。 「ごめん……そんなかお、しないで」  意識が薄れていく。  甘井呂が何か声を出した気がするが、全く聞き取れなくなった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加