カッコつけさせて

1/3
前へ
/80ページ
次へ

カッコつけさせて

 校庭の隅に居たって、屋根が無ければ太陽の陽は強く降り注ぐ。 「……はぁ……ダルい……」 「珍しいっすね」  部活で校庭を走った後の水分補給中、思わずため息と共に溢れでた言葉に唐渡が反応した。  普段であれば疲れていても出来るだけシャキッとした背中を後輩に見せたいと思うのだが、今は気持ちも体も落ち込んでいる。  汗をタオルで拭いながらなんとか笑みを作ってみるが、ハツラツとした笑顔には程遠くなってしまった。 「ん……ちょっと体調が……」 「まだ仲直りしてないんすか。あのクソ生意気なヤンキーDomと」 「ぶっ」  図星を突かれた諏訪は、飲んでいたスポーツドリンクでむせ返る。慌てた唐渡が背中をさすってくれるのを感じつつ、朝の甘井呂とのことを思い出した。  意識を失った後、目を覚ましたときには保健室のベッドの上だった。簡素な見た目に反してふわりと寝心地のいいベッドから起き上がると、養護教諭がすぐに対応してくれた。 「Sub dropしちゃった君を、甘井呂くんが連れてきてくれたんだ。真っ青な顔してたからびっくりしたよー」  話してくれた内容によると、甘井呂は諏訪を保健室に連れてきてすぐにいなくなってしまったらしい。ただ、Sub dropしたにしては回復も早かったから、甘井呂が薬を飲ませてくれたんじゃないかってことだった。  養護教諭は諏訪から事情を聞き出そうとしたが、 「まだ慣れてなくて、抑制剤を飲むのすっかり忘れてました」  と、口から出まかせを言ったら意外と誤魔化せた。 (スマホの飾り、なくなってるし……甘井呂が持ってったのかな……)  ふらふらと教室に戻ってから気がついた、スマートフォンの飾りの紛失。留め具ごとなくなっていたから、壊れたのではなく意図的に外されたのだろう。  ショック過ぎて、その後の授業はいつも以上に頭に入ってこなかった。  部活をして体を動かしていても、ずっと甘井呂のことを考えている。  どうして女子の誘いを断った甘井呂が声を掛けてくれた時に、きちんと気持ちを伝えずに振り払ってしまったのか。  その後悔ばかりが頭をもたげてきた。 「副部長、ちょっと抜けましょう」 「え、もう休憩終わるぞ」 「良いから」  唐渡は強引に諏訪の腕を掴んで立ち上がらせた。思わず林の方へと助けを求める視線を向けるが、何故かヒラヒラと手を振られてしまう。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加