カッコつけさせて

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 訳がわからず混乱したまま連れて行かれたのは、部室棟だった。  部室に入って話をするのかと思ったが、唐渡は日陰になっている壁にもたれ掛かって座った。 「ずっと心ここにあらずじゃないっすか。昨日は遠慮したけど、やっぱ洗いざらい話してスッキリしましょう」  隣をポンポンと叩く唐渡に促されるまま、諏訪は膝を抱えて地面に座る。 「……昨日の今日でお前に話すの、申し訳ねぇんだけど……」 「いいから。好きな人にカッコつけさせてください」  緩く笑う整った顔を見ている諏訪の鼻先が、じわりと赤くなってきた。  どう説明しようかと口元が迷って、ただ開閉を繰り返す。  自分を好いてくれている相手に残酷だとおもったが、もう胸の中に詰まったものを全て吐き出してしまいたかった。  涙が溢れないように眉根を寄せ、朝のことを唐渡に打ち明ける。 「甘井呂、すごく怒ってて……っ俺、妬いてただけだって、俺のDomになってくださいって言いたかったのに。もう話してもくれないかも」  言葉にする度に苦しくなる。  甘井呂はSub dropしてしまった諏訪を見て、どんな気持ちになっただろう。  唐渡は話の途中で何か言いかけるたびに手で口を覆い、ひたすら黙ってきこうという態度を示してくれる。 「あんなに優しいやつを、怒らせた……キスが特別じゃないって、そんだけで傷つけた」  いつも通りPlayしてくれていただけだ。他のSubにしていても悪いことじゃない。  一方的に嫉妬して、一方的にぶつけてしまった。湧き上がってくる感情が、全く抑えられなくて。 「でも、俺……俺は甘井呂が……ぶむっ」 「ストップ。それは俺が一番に聞くわけにはいかねぇっす」  唐渡は自分の口を抑えていた手で諏訪の口を塞いできた。何か悩むように部室棟のそばに生える木々の方へと視線をやり、それから諏訪に改めて向き直る。 「ところでなんすけど、もしかして拗れた原因、Play中のキスがどうたらってやつっすか」 「それだけじゃないけど……」 「すんません!」  突然、唐渡が深々と頭を下げた。しかも胡座をかいたまま地面に手をついたので、諏訪はギョッとする。 「ちょ、ど、どうしたお前」 「すんません見栄はりました。しませんキスは多分普通しません」 「な、なんだと」  頭を上げさせようとした手が止まる。  固まってしまった諏訪に対し、唐渡の頭は前髪が土に触れるほど下がっていく。 「副部長とあいつがキスしたと思ったら悔しくて! つい口が勝手に……!」 「唐渡ぉ!」  バシンっと頭を叩き倒したくなるのをなんとか堪えた。  知らなかったとはいえ、自分に思いを寄せている唐渡に相談したのは諏訪だ。  嫉妬心は冷静さを奪う。  今まさに、嫉妬のせいで落ち込んでいる諏訪が責めるのは違う気がした。
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