カッコつけさせて

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 それに、甘井呂が他のSubとのPlay中にキスをしていようがいまいが、諏訪は嫌だと感じたに違いない。 「ま、まぁ……もしキスは特別だって言われても……俺が特別なら他の奴とPlayするなってキレてた気もするし……」 「あいつは他のSubとPlayとか、もうしてねぇと思います」 「何で分かるんだ?」  本当にそうだったら嬉しいが、そう思う理由が分からない。仮に甘井呂にとってキスが特別だったとしても、諏訪とPlayが出来るのは週末のみ。  平日に他のSubと何をしているかなんて分からない。 「……なんでって……」  困ったように言葉に詰まった唐渡の視線が上下左右どころか、また木陰の方までふわふわと泳いでいってしまう。 「つか、もう本人に確認してください」 「う……まだ心の準備が」 「向こうは準備万端っすよ。暑さで頭がやられてなければ」  唐渡は手についた土を払うと、真っ直ぐ木陰を指さした。つられて目線をそちらに向けた諏訪は、葉や枝の隙間からキラキラと反射する何かに気がつく。 (ま、まさか)  胸が大きく鳴る。  諏訪はすぐに立ち上がって地面を蹴る。  数秒後に覗き込んだ木陰では、しゃがみ込んだ甘井呂が罰の悪そうな顔をしていた。 「甘井呂! なんで……」  太陽が反射して居場所を知らせた金髪は、汗で額に張り付いている。日陰とはいえ今は七月。暑さのせいで顔だけでなく、いつもは白い首や腕まで真っ赤に上気していた。  甘井呂は前髪を掻き上げながら、眩しそうに諏訪を見上げてくる。 「……部活が終わるまで、待ち伏せ……」 「……っ」  諏訪は何も言えずに膝を地面につく。至近距離で見つめあって、熱そうな甘井呂の頬に手を伸ばした。 「んな暑いとこで待ってたら死ぬぞバッカじゃねぇの」  手が肌に触れる直前、唐渡の声が上から降ってきて諏訪は動きを止める。  諏訪についてきていたらしい唐渡は、腰に手を当てて立っていた。 「アマイロくんはクールでかっこいいって言ってるやつに見せてぇくらい無様」 「うぜぇ」  嘲笑うように降りかかってくる言葉に、甘井呂は言い返せず舌打ちする。  相変わらず険悪な二人に挟まれて、諏訪はいつものように頭を抱えそうになってしまう。  だが心配は不要だった。唐渡は諏訪の水筒を甘井呂に差し出し、柔らかく目を細めたのだ。 「副部長、このバカヤンキーつれてもう帰ってください」 「分かっ……いやいや! ダメだろまだ」 「邪魔っす」  水筒を受け取った甘井呂の横で首を振る諏訪の頭を、唐渡はポンッと軽く叩いた。 「今の副部長、居ても邪魔なだけっすよ」  辛口な後輩が今まで見た中で一番穏やかで大人びた顔をしていて。  諏訪は喉の奥に込み上げてくるものを飲み込み、小さく頷いた。
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