待て

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待て

 ビルの日陰になっている小さな公園のベンチに、諏訪と甘井呂は座っていた。  学校近くの商店街から途中で逸れて、細い道を通った先にあるその公園には二人が座っているベンチしかない。  ずっと日陰になっているせいか、気温は高くとも二人で話せそうな場所だ。  連れてきてくれた甘井呂は学校からずっと黙ったまま、ベンチの端っこギリギリに座って諏訪から距離をとっていた。  諏訪も、何から言えば良いのかとカバンの紐を握りしめる。 「あ、甘井呂」 「諏訪」  二人の声が丁度重なる。  そして、二人ともまた黙ってしまった。  気まずくて喋るタイミングが難しい。  だが、いつまでもそうしているわけにはいかない。  諏訪は腹を括ってスッと息を吸うと、甘井呂の方を向いて頭を下げる。 「ごめん!」  甘井呂の方を見ることができず、木製のベンチと睨めっこして気持ちを話し始めた。 「俺、自分のことばっかりで……! お前に甘えて、酷い態度で……許してもらえなかったらって怖くて、すぐに謝りもしないで」  また涙が溢れてきそうになるのを、息を止めて耐える。泣いてしまったら、優しい甘井呂が諏訪を許さざるを得なくなってしまう気がした。 「お前は色んなSubとPlayしてるんだって思って嫉妬したんだ。本当にごめん……っ」 「……」  甘井呂は諏訪の頭に手を乗せようとして引っ込めた。諏訪はそれに気が付かず、ただ甘井呂の返事を待つ。 「謝るのは俺の方だ」  低く深い声が耳に響いてくる。  恐る恐る顔を上げると、眉を下げた甘井呂が諏訪を見つめていた。その表情からは怒りは読み取れず、諏訪と同じ不安に染まった顔をしている。 「俺のこと、怖くなったろ」 「怖くなんてねぇよ! お前は悪くな……っ」 「俺は怖い」  身を乗り出した諏訪に、甘井呂は緩く首を振る。軽く開いた膝に置いた握り拳は細かく震えていた。 「あんなにGlareグレアをコントロール出来なかったの初めてだった」 「でも、あれは俺が怒らせたから」 「怒ってたんじゃねぇ。俺も、嫉妬してたんだ。あんたが唐渡にとられると思って」  お互いが同じ気持ちだった。  そう思うと、諏訪は胸が熱くなったし嬉しく感じる。  しかし甘井呂の表情は曇ったままだ。
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