待て

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「セーフワードを言ってくれたのに、逆ギレしてGlareを……最悪だ。次もああなるかもって恐怖しかねぇし、許してもらえるなんて思ってなかったけど……せめて謝ろうって待ってた」  言葉を切った甘井呂は、ようやく諏訪を見た。  諏訪は、真剣で真っ直ぐな瞳に吸い込まれるように目が離せなくなる。 「そしたら偶然、あんたたちの話を聞くことになって」 「……ど、どこから?」 「最初から」 「あ、そ、そか」  唐渡と話していた内容を全て聞かれていた。  つまり、甘井呂は諏訪の気持ちをほとんど知っているということだ。  羞恥心で、諏訪は黙ってしまう。  甘井呂も言葉を探すように唇を閉ざしたままだった。  落ち着かない静寂が二人の空間を包む。 「伝わってなかったんだって気づいた」 「な、なにが!?」  先に口を開いたのは甘井呂だった。  すかさず食いついた諏訪に、甘井呂は気まずそうに視線を揺らす。  いつも諏訪を落ち着かせてくれる深い声は、どこか拗ねているようだった。 「俺は、『正式な契約はできねぇけどあんたとパートナーになりたい』って伝えたつもりだったんだ」  諏訪は目を見開いて全ての動きを止めた。  何度も何度も甘井呂の言葉を頭の中で反芻し、記憶の中の引き出しを全て開ける。  しかし、全く心当たりがなかった。 「…………いつ?」 「これ、渡した時」  甘井呂はポケットの中からバスケットボールの飾りを取り出した。やはり甘井呂が持っていたのだと確認するとともに、諏訪は素直に首を傾げた。 「言ってたっけ」 「未成年はClaimは出来ねぇけどって渡したろ」  甘井呂は不満そうな声で飾りを握りしめた。  再び見えなくなったバスケットボールを渡された時のことを、諏訪は文字通り頭を抱えて思い出そうとした。 『未成年はClaimが出来ねぇの、鬱陶しいな』  なるほど、甘井呂は確かにそう言っていた。  諏訪は眉を吊り上げ、ベンチの上でグッと甘井呂に近づいた。 「あれで分かるわけねぇじゃん!」 「分かると思ったんだよ!」  両方ともが、全く納得ができないという声を上げる。  Claim(クレーム)とは、DomとSubがパートナー契約を結ぶことだ。それによって、互いが互いだけとPlayをする関係になる。  通常はDomがSubにCollar(カラー)と呼ばれる首輪を贈るのだが、結婚とほぼ同義のため成人しなければClaimはできないのだ。  甘井呂は、そのCallarの代わりにバスケットボールの飾りを贈ったのだと言う。 「え? じゃあずっと……お前は俺をパートナーみたいに扱ってくれてたのか?」 「そうだよ」  全く気付いていなかった。
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