待て

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 というのも、佐藤をケアしていた時に甘井呂が優しくとろけるようなPlayをしているのを諏訪は見ている。  諏訪はどんなに甘井呂が甘やかしてくれても、「みんなにそうなのだ」と思い込んでいたのだ。 「あれから、他の人とPlayとかしてないのか?」 「あんたと初めてPlayしてからしてねぇ」  真剣な瞳が諏訪の胸を射抜く。  じんわりと心が熱くなって、諏訪は触れてこようとしない白い手に自身の手を重ねた。  ピクッと緊張するのが伝わったが、甘井呂の手は逃げていかない。気をよくした諏訪は、ギュッと熱い手を握った。 「なんで? なんでしてないんだ?」 「どうして『なんで』ってなるんだよ分かれよ」  甘井呂は唇をへの字に曲げてしまったが、諏訪はにっこりと口角を上げる。  顔を寄せて、長いまつ毛に縁取られた目を至近距離から見つめる。 「……じゃあ、俺が先に言って良いか?」 「待て。そう言われると」 「甘井呂が好きだ。お前の、特別になりたい。俺のDomに……恋人になってくれ」  心音が耳元でなっているかのように大きく聞こえる。  顔が熱いのは、息が苦しいのは、気温のせいだけではない。  舌がもつれそうになりながら、諏訪は言いたいことを言い切った。  真正面から言葉を受け取った甘井呂は、瞳を揺らして眉を寄せた。 「待てっつったろ」 「そんなん知るか」  甘井呂の顔も、諏訪に負けず劣らず紅潮している。二人でサウナにでも入っているかのように、体温も高い。  でも、お互いの目線は絶対に逸らさなかった。 「……返事は?」  諏訪は、口を閉じてしまった甘井呂の背に腕を回す。胸の鼓動が重なった。  ちょうど甘井呂の吐息が耳に触れる距離になって、こそばゆいけれど心地いい。  甘井呂は、まだ迷いのある声で諏訪に問いかけてくる。 「本当にいいのか? また、あんたをSub dropさせるかもしれない」 「大丈夫だよ、俺たちなら。もしそうなっても、お前が責任持って俺をケアしてくれるだろ?」 「ほんと、肝が据わってる」  深い声が笑ったかと思うと、力強い腕に抱きすくめられた。汗の滲む頬と頬がピッタリと触れる。 「好きだ。あんたの恋人にしてくれ」  舞い上がった心のままに唇を寄せた諏訪へ、呼吸が止まるかと思うような口付けが返ってきた。
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