ふわふわ

2/4
前へ
/80ページ
次へ
「だって、あんな状態にしたのが自分だって思ったら怖い……怖くないか?」  ぐったりと動かなかった佐藤を見た時は、もちろんゾッとした。今思い出したって、二度とあんな状況に遭遇したくない。  それと共に、部室中に響く声で怒鳴っていた唐渡も真っ青な顔をしていたことを思い出す。 「唐渡が一番ショックだったと、思うんだよな……っ、て、なに?」  突然ポンっと頭に何か触れた。  何の脈絡もなく、甘井呂の大きい手が乗ったのだ。 「なんとなく」  わしゃわしゃと遠慮なく撫でられて、体が揺れた。頭を押さえつけられながら目線を上げると、何だか嬉しそうに口角が上がっていて訳がわからない。  それなのに、甘井呂に撫でられるのが心地よくてまた頭がぼんやりしてくる。 「そういや」 「んー……?」  低音ボイスも耳に幸せで、諏訪は知らず知らずのうちに自分から甘井呂の手のひらに擦り寄っていた。夢と現実の間をフラフラしているような感じだ。 「大丈夫かあんた」 「うん、きもちぃ…………おわぁ!?」  声が妙に近く感じてうっすらと目を開けると、まつ毛が長く鼻筋が通った美顔がドアップになっていた。  諏訪は即座に覚醒して飛び退く。勢い余って自動販売機にぶつかり、背中が痛かったが気にしている場合ではなかった。  自分がしたことが信じられない。 「ご、ごごごめん!! 何やってんだ俺! 寝不足で眠いのかも!」  両手を合わせながら取り乱している諏訪を、甘井呂は不快そうでもなく静かな表情で見つめてくる。 「あんたもPlayするか?」 「え……?」  Playと聞いた諏訪の頭に、部室での光景が蘇ってくる。  優しい瞳、柔らかい口元、脳を撫でるような深い声。身体を包み込む逞しい腕に包まれて、褒められたら。  想像して頷きそうになったところで、諏訪は我に帰る。 (ちょっと羨ましいとか思ってたのがバレてる!?)  Playに誘ってくるなんて、覗き見ていたのが甘井呂に気付かれていたのかもしれないと血の気が引く。引き攣った顔で首が痛くなるほど左右に振った。 「み、みてないぞ!」 「は?」  訝しげな甘井呂の反応で、諏訪は完全に墓穴を掘ったことに気がつく。ピタリと動きを止めて、ロボットのような動きで甘井呂に背を向けた。  いたたまれない。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加