ふわふわ

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「な、なんでもないデス。ではそろそろ部活戻りま」 「さっきのPlay見てたのか」  甘井呂はうやむやにして見逃してはくれなかった。はっきりと誤解を生まない質問をしてきたので、諏訪は観念する。  改めて甘井呂の方に向き直るが、罪悪感から両手で顔を覆う。 「ごめん……心配で」  嘘はついていない。  Playを覗いた時の諏訪は邪な気持ちはなく、純粋にチームメイトを案じていた。しかし、甘井呂の好意を疑ったことを白状する形になったので気まずい。 「俺が気軽に連れてきて巻き込んだのに、ごめ」 「なら話は早いな。あんな感じでよければいつでも」 「ほぁ?」 「あんた、出てくる声がいちいち面白いな」 「だって普通、NormalをPlayに誘ったりしないだろ? 間抜けな声も出るって」  Play出来るのはDomとSubだけなのは常識だ。  第一、NormalはPlayで体調が良くなったりはしない。  そう伝えると、口元を押さえて笑みを隠していた甘井呂の眉間に皺がよった。 「Normal……?」  Normalにも個人的な趣味としてソウイウ行為が好きな人はいるだろうが、諏訪には分からない世界だった。  甘井呂には諏訪が興味津々に見えていたのだろうか。いや、確実に見えていただろう。  疲れていたとはいえ、ソウイウ趣味だと思われても仕方がない行動をした自覚が諏訪にはある。 「あ、もしかしてお前を離さないからSubだと思ったのか? 俺は純粋に入部してほしいだけだぞ!」 「……」  諏訪は何とか誤解を解こうと、大袈裟に明るい声を出してバシバシと広い背中を叩く。無抵抗に揺れながら、甘井呂はジッと諏訪を見下ろしていた。  何の言葉もない時間で、全てを見透かされているようで。  諏訪の笑顔が引き攣りそうになった時、 「……入るわけねぇだろ」  たっぷり間をとった後、小さく息を吐いた甘井呂がジュース缶の中身を一気に煽る。  波打つ喉と、飲み終えた後に唇を舐める舌の動きに目を奪われる。  それは一瞬の出来事で、諏訪はすぐに我に帰った。  出会ってからの短い時間で、何度も甘井呂に見惚れてしまっている。  こんなことは初めてだ。  かわいい女子を目の前にしたって、ここまで意識を持っていかれることはない。 「じゃあな」  ゴミ箱の中で缶と缶がぶつかる乾いた音をBGMに、甘井呂が背を向けた。  諏訪は、条件反射のように手を伸ばす。 「待って……!」
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