それは、まるで

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それは、まるで

 まるで神聖な儀式のようだ。  ドアの隙間から見た光景に、諏訪大輝(すわだいき)は感嘆した。 「Come(おいで)」  ロッカーが並ぶ狭い部室のベンチに座る、甘井呂(あまいろ)と名乗った金髪の生徒から目が離せない。  彼が低い声で囁いた言葉が耳から全身に行き渡り、「その通りにしなければならない」と、脳に指令を送る。  諏訪に向けられた言葉ではないというのに、だ。    部屋の中では、甘井呂の涼しげな瞳と彼を見上げる恍惚とした瞳が絡み合っている。  緩く開いた腕の中に遠慮がちに近づく相手を、甘井呂は優しく抱きしめた。 「Good boy(よく出来ました)」  優しい声と共に大きな手で撫でられた相手は、あまりにも幸せそうだ。  いつも過ごしている部室が、まるで甘井呂たち二人だけの空間のよう。    諏訪は、生唾を飲み込んだ。   (いいな……)    心の高揚が、抑えられない。    Sub(サブ)とか、Dom(ドム)とか、Play(プレイ)とか。  Normal(ノーマル)の自分には関係ないと思っていたのに。  自分は今、甘井呂の前に出て跪きたい。    命令されて、従って。  それから頭を撫でて褒めて欲しい。    初めての欲求に戸惑いながら、その光景を目に焼き付けた。  
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