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「雨、止まないかなぁ」
アパートの2階の佳代の部屋で、窓辺にもたれかかりながら空を見上げていた剛史が呟いた。その横で、佳代は首を振って、
「私はいや」
「え?雨が止むのが?」
「……うん」
「なんで?雨なんか……」
「あなたが……」
佳代の声が、剛史の言葉に被る。
「……いなくなってしまいそうだから」
「……?」
「なーんてね」
きょとんとする剛史に、佳代はそう言って、フッと笑って見せた。
新卒で入社して2年目の梅雨のシーズン。
初の1人暮らしを始めたばかりの頃はホームシックになったりしたけど、もう慣れた。
けれど、雨の休日は、気分も憂鬱になる。
なのに、雨が止むのは……
この日は、付き合って半年になる剛史が来ている。
「せっかくの野球観戦なのに」
隣では剛史が、相変わらず恨めしそうに空を見上げている。
今夜は、横浜スタジアムで、一緒にナイターを観る予定なのだ。
と言っても、佳代は野球自体には興味がない。剛史と一緒にいられるなら、どこでも良い。と言うか、中止ならその方が却っていいかも。なぜなら……
(野球を見ている時、あなたはいつも、私のことはそっちのけだもんね)
剛史の横顔を軽く睨んでみる。そんなことには気が付かない彼は、
「これじゃあ中止かな……」
なおもしょんぼりと雨空を見上げている。
「私は中止でもいいな」
声に出してみた。
「えぇー、今夜はエースの◯◯が投げるんだよ」
「ふーん」
「なに!」
「だって、雨が止んだら、あなたが……」
「……いなくなる?」
「……」
「そんなわけないじゃん」
「だよね……」
答えながら、佳代は昔を思い出していた。
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