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それは、佳代がまだ小学生になったばかりの頃のこと。 「おっ、ちょうど雨が上がった。じゃ、父さん、ちょっとゴルフに行ってくるからな」 ある日曜日の朝、起きて1階のリビングに降りていくと、掃き出し窓から空を見上げていた父がそう言って、佳代に微笑んだ。  そして、いつもゴルフに出かける時はそうするように、玄関に置いてあるゴルフクラブをひょいと肩にかけると、 「母さんの言うことを聞いて、いい子にしてるんだぞ」  と、もう一度微笑みを向け、出ていった。  看護師の母は、前夜から泊まり勤務で、まだ帰っていない。  スーッと滑り出して遠ざかっていく父のセダンを、リビングの窓から見送る。  母が帰宅するまで、あと1時間くらい。  と言っても、徹夜明けの母は、帰るといつも、佳代のお昼の支度だけ済ませると、 「ごめんね。ちょっと寝かせてね」  と言って、ベッドに倒れ込んでしまう。起きてくるのは、だいたい日が暮れる頃。  ひとりぼっちの日曜日に、涙がこぼれる。  と、目の前にサーッと日が差してきた。  芝生がキラキラする。  誘われるように、掃き出し窓を開け、父のぶかぶかのサンダルを履いて庭に出てみる。 「わぁ……」  その清々しさに、思わず両手を空に伸ばして深呼吸。一瞬、寂しさが吹き飛んだ。 (雨上がりって、こんなに気持ちいいんだ)  幼心にそう思いながら、もう一度、胸いっぱいに空気を吸い込む。と、 「あら、佳代、どこにいるのかと思ったら……」  不意に声が聞こえた。振り返ると、窓辺に笑顔で立ってこちらを見ている母の姿があった。
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