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「お母さん!」
いつもより早く帰ってきてくれた母に、急に甘えたくなって、勢いよく脚に抱きつく。
「なに、どうしたの」
母がしゃがんで、頭を撫でてくれる。涙が溢れてきた。
土日と言っても、家族3人揃って過ごした記憶はあまり無い。
父は、ほとんど毎週、ゴルフだ何だと言って出かけてしまう。たまにいても、「疲れた」と言って寝てばかり。
「お父さんは?またゴルフ?」
コクンと頷く。
「ごめんね。佳代には寂しい思いをさせてばかりで」
佳代の頭を撫でながら、母はそう言ってから、
「母さんも庭に出てみようかな」
と、サンダルを履いて、芝生の上に立った。そして、ひとつ深呼吸すると、
「あぁ、いい匂い」
生き返ったというような顔になる。
「あぁ……ホントだ」
どこからか、沈丁花の甘い香りが漂ってきていた。
その後、母はいつもそうするように、佳代のお昼の支度をして、ベッドに入った。
けど、いつもの寂しい日曜日とは、少し違った気分だった。
ところが……
父が帰ってくることは、もうなかった。
その日、ゴルフ場で倒れ、あっ気なくこの世を去ったのだ。
年度の変わり目で多忙を極めていた父は、かなり疲れていた。
しかし、その日は大事な接待ゴルフ。
「無理してたんじゃないかな」
「雨が止まなければ、中止だったのにな」
通夜の時、一緒にコースを回った会社の同僚が話しているのが聞こえた。
ゴルフが唯一の息抜きだと言っていた父だが、その息抜きも、最近は負担になっていたようだった。
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