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リベ。
それは、私がここにきた時、ちょっとした仕事をサボろうとしてたら、当時の仕事のリーダーにつけられた戒めの名前だった。
1日も持たない自分の意思が、サルスベリの様に儚いもんだと言われていたから。
「おっと、これから用事があるから」
扉を閉めると、ガタっと強い音が鳴る。
ドアの隙間に爪先が挟まっていたのだ。
「迎えにきたんだ、のこのこ帰るわけには」
顔を歪めて、尚且つ笑おうと努めるこの人の、その執念は何処からやってくるのだろう?
誰かに恨みを買う様な人生では無かった筈だし。
かといって誰かを幸せにはできなかったのに?
本当に知らない君の、覚えてない筈の君の何を私は、そうそこまで必死にさせたんだろう?
私がゆっくりと思考を続ける間も、彼は一切足を引っ込めず、顔を引き攣らせていた。その大きな体を縮こませ、苦痛に体を揺らしながら、大きな息を吸って、吐いて。
そこで私の頭の中に光がさす。
直後、ドアは勢いよく開く。彼の大きな、威圧的な体が私を押し倒して、私もお化けの一部になっていた。幸い彼の体は見ずに済んだが、息が苦しい。
「す、まな」
「ふふっ」
「?」
ありもしない想像が、糸のほつれを緩めていく。彼が誰なのか本当に知らないし、彼はきっとここら辺に住んでるものじゃ無い。しかし分かる、彼のいつかの面影を感じさせるその声と、赤褐色の瞳が。
布切れを退かし、ようやく解放された口元から大きく息を吸って、吐いて。
震える指で手を差し出す。
「私をここから連れ出してくれないか」
骨ボネとした彼の手は、もう既にしっかりと、私の手を握っていた。
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