答え合わせは出来ない

1/1
前へ
/3ページ
次へ

答え合わせは出来ない

三日後に紫紺は警察署を訪れていた。 受付で松崎に連絡を取ってもらって、その前で待っている。 暫くして松崎が笑いながら、近寄って来た。声を殺しながら笑っている松崎に紫紺は変な顔をする。 「人に会う時に何で笑っているんだ?」 怒ってはいない紫紺に、まだ笑いながら松崎が答える。 「何度言っても、お前が弟だと言われるんだよなあ」 紫紺は松崎を見上げる。 「俺を不機嫌にしようとしているか?」 「ぜんぜん?取り敢えず応接室に行こうか?」 「…ああ」 確かに女性警官の視線が生ぬるい事を体感しながら、紫紺は松崎について行く。 小さな部屋に入り、松崎の相向かいに座った紫紺は資料を手渡される。 「やっぱり、あったのか」 「ああ、お前の指摘通り、あの家の基礎部分に一体の死体があった。男性で年齢は20から50の間、腐敗が進んでいるから身元はまだ分からない」 紫紺は添えられている写真を、眉を顰めて見ている。 「それが、今回の事件の元だっていう事でいいか?」 「…多分」 歯切れの悪い紫紺の言葉に、松崎が眉を上げる。 「確信はないのか」 「今回はね、ちょっと誰の力なのかもわからないんだ」 「ふうん?」 水滴が滴るペットボトルに口を付けながら、松崎は紫紺の言葉を待つ。 「謎が多い。地震の事は有記が言っていたから、その埋まっていた人の領域なんだろうけれど、そんな力を顕現出来る実力者が埋まってるのが、訳分からない」 紫紺も濡れたペットボトルを開ける。 「家に入って話が出来た依頼主の奥さんのことも、今一つ。これを見ると死んだ後に土を掘っていた事になっているんだよな?」 資料を捲ってから紫紺が言うのを眺めた後に、松崎は頷いた。 「だとすると、家に着いた死霊なのだとして。あまりに力が弱すぎる」 「弱いか」 「うん。話しか出来ないものが、存在し続けていたのが」 アイスコーヒーを口に含んでから紫紺は松崎を見る。 「解決には程遠い」 「…依頼主が死んじまったしなあ?」 「本当に。ボランティアとか俺には向いてないのに」 確かにと思いながら、松崎が頷く。 「それでも、これ以上は手が打てないから。俺の方はこれで終わりだよ」 「ああ、そうだろうな」 松崎が軽く笑うと、紫紺が小さく息を吐いた。 「それで?」 「ん?」 緩い返事に、紫紺が睨む。 「お前の話って言うのは?」 「ああ、覚えていたのか」 松崎がまだ笑っている事に、紫紺がちっと舌打ちをした。 「そんなに面倒な事なのかよ」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加