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外には何台ものパトカーのお出迎えがあった。容疑者が速やかに連行されて行く。煙草を吸いながら、遠ざかっていく背中を見届ける。
さよなら、俺の初恋。
「あの!」
そこへ、足音高らかに後輩の赤城がやって来た。感情に浸る暇もない。
「あゆみ先輩! 俺の家ホテルじゃないんですけど!」
「ん、ごめん。現場検証終わったら、もろもろクリーニング代出す」
「もうここに住みたくないですよ! 色々思い出しちゃうし!」
「うん、じゃあ、どこか見つかるまで、俺の部屋使って良いから。合鍵渡すし」
この事件の管轄がうちに回ってきた時から、俺がクロムを捕まえると決めていた。どれだけ顔を変えようと、どれだけ性格が変わろうと。好きな人を目の前にすると胸が高鳴るから。俺だけがあいつを見抜けると思った。そして、迂闊にも窃盗品の指輪をつけていたことから、確信は強まった。金回りの良いチョロい男を演じれば、コロッと落ちる。よくそれで結婚詐欺なんか出来たものだ。
とことん失望した。
「先輩、あんなクソ野郎のどこが良いんすか」
「うん? 忘れた」
「俺の方が先輩のこと幸せに出来ますよ」
驚いて、遠くから隣に視線を移した。冗談では済まされない表情で赤城が俺を見つめている。情熱の赤が炎を燃えたぎらせていた。
「俺より出世してから口説いてくんない? 自分よりバカな男は愛せねぇの」
「くっ、上等ですよ! 先輩よりスピード出世してみせます!」
「はいはい」
黒い夢で踊るよりも、燃える朝陽に胸を焦がされるまで、もうすぐ。
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