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クロムが良い店を知っていると言うので、彼の後ろをついて行った。入った店は随分繁盛していて、派手な男女が目をキラキラさせて話し込んでいた。クロムとマスターは知り合いなのか。軽く目配せすると、奥の個室に案内される。
これまた高そうな黒の革張りのソファーに、ふたりして並んで座った。クロムと肩が触れ合う。
「何年ぶりかな。あ、お酒大丈夫?」
「うん、結構呑むよ。ここって、ビールあんの?」
「あるよ、俺が頼むから安心して? こういうところ、あんま来ない?」
「そうだね。そんなに得意じゃないかな」
「だろうね、あゆみはそんな感じする。テキトーに頼むね」
「ありがとう」
クロムがテキパキとビールやつまみを頼んでくれる。飲み物が揃ったところで乾杯した。
「俺たちの再会に、乾杯!」
「乾杯……」
彼はごくごくとビールを煽り、美味しそうに微笑んだ。本当に顔が良い。
「髪、染めちゃったの勿体無いな」
「ああ、目立ちたくなくて。それより、あゆみは今どんな感じなの?」
「え? ああ、うん。株でちょっと稼いで、ぼちぼち会社員とかやってる」
「ふ〜ん、良い時計してるもんね」
「これは限定品だったから、買っちゃって。これでも、3本に絞った方なんだ」
「え? 他にもあと2本あるの?」
「うん。家にあるよ」
クロムは少し思案するように、まばたきをした。それからまた酒を煽る。
「クロムは? 結婚、したの?」
一番嫌なことは最初に片付ける。
聞きたくてうずうずしていることは、たんまりあった。
「え? あ、これはカモフラージュ。女性に言い寄られないようにさ」
「相変わらずモテるんだな」
「よしてよ。もう、女性はうんざりかな。……やっぱり、あゆみの隣って落ち着く」
突然クロムが俺の腰に手を回し、引き寄せてくる。先ほどよりも格段に近くなった距離に呼吸が乱れた。間近にカラコンの黒が覗く。
「今日、あゆみの家に行って良い?」
心地良い声。甘えるような声音だが、このまま絶対帰さないという欲が見える。
「ダメだよ」
「なんで?」
「俺……ゲイ、だしっ」
「俺もだよ」
「へ? あっ、んっ」
気がついたら唇を奪われて、ソファーに押し倒されていた。
展開が早すぎて、ついていけない。脳が思考を止めそうになる。ずっとキスしたかった男と貪り合うように口づけを交わしている。
なんて、人生だ。
どんな気分でいれば良い。
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