黒夢

3/6

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 クロムが良い店を知っていると言うので、彼の後ろをついて行った。入った店は随分繁盛していて、派手な男女が目をキラキラさせて話し込んでいた。クロムとマスターは知り合いなのか。軽く目配せすると、奥の個室に案内される。  これまた高そうな黒の革張りのソファーに、ふたりして並んで座った。クロムと肩が触れ合う。 「何年ぶりかな。あ、お酒大丈夫?」 「うん、結構呑むよ。ここって、ビールあんの?」 「あるよ、俺が頼むから安心して? こういうところ、あんま来ない?」 「そうだね。そんなに得意じゃないかな」 「だろうね、あゆみはそんな感じする。テキトーに頼むね」 「ありがとう」  クロムがテキパキとビールやつまみを頼んでくれる。飲み物が揃ったところで乾杯した。 「俺たちの再会に、乾杯!」 「乾杯……」  彼はごくごくとビールを煽り、美味しそうに微笑んだ。本当に顔が良い。 「髪、染めちゃったの勿体無いな」 「ああ、目立ちたくなくて。それより、あゆみは今どんな感じなの?」 「え? ああ、うん。株でちょっと稼いで、ぼちぼち会社員とかやってる」 「ふ〜ん、良い時計してるもんね」 「これは限定品だったから、買っちゃって。これでも、3本に絞った方なんだ」 「え? 他にもあと2本あるの?」 「うん。家にあるよ」 クロムは少し思案するように、まばたきをした。それからまた酒を煽る。 「クロムは? 結婚、したの?」 一番嫌なことは最初に片付ける。 聞きたくてうずうずしていることは、たんまりあった。 「え? あ、これはカモフラージュ。女性に言い寄られないようにさ」 「相変わらずモテるんだな」 「よしてよ。もう、女性はうんざりかな。……やっぱり、あゆみの隣って落ち着く」  突然クロムが俺の腰に手を回し、引き寄せてくる。先ほどよりも格段に近くなった距離に呼吸が乱れた。間近にカラコンの黒が覗く。 「今日、あゆみの家に行って良い?」 心地良い声。甘えるような声音だが、このまま絶対帰さないという欲が見える。 「ダメだよ」 「なんで?」 「俺……ゲイ、だしっ」 「俺もだよ」 「へ? あっ、んっ」  気がついたら唇を奪われて、ソファーに押し倒されていた。 展開が早すぎて、ついていけない。脳が思考を止めそうになる。ずっとキスしたかった男と貪り合うように口づけを交わしている。 なんて、人生だ。 どんな気分でいれば良い。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加