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酔った勢いとは、凄まじい。
男は初めてだったが、なんとかなった。昔からあゆみの好意には気づいていたし、利用しない手はないと思った。もうひと稼ぎしてから国外へ飛ぼうと思っていたが、あちらから黄金の鴨が大量のネギを背負ってやって来てくれたのだ。なんて、幸運。なんて、運命。
あゆみは酒が強いというのは本当で、呑ませても呑ませても潰れなかった。幸い、睡眠薬が効いてくれたから、こうして家探ししているのだけれど。
「株、俺も勉強出来ればな……」
引き出しの中にある時計を片っ端からリュックに詰めていく。とにかく、金目になりそうな貴金属を盗んでいった。慣れたもので、金になりそうな物が隠してある場所は嗅ぎ分けることが出来る。
まともに働かなくても、女に貢がせて、金の亡者から金を盗んで生活すれば良い。愛はいらない。金さえあれば幸せなんだから。
最後に、自分の指紋がついてそうなところを、丁寧に拭いていく。
「ごめん、あゆみ」
まだ寝室で寝こけているであろう可愛い男に後ろ髪を引かれた。
幼い頃、いじめられていたところを助けたら懐かれてしまった。ちっちゃい身体で、ぴょこぴょこ俺の後をついて来たのだ。艶のある黒髪を撫でると、嬉しそうに笑ったっけ。
いつから、俺とお前、こんなに変わっちまったんだろうなぁ。
俺に騙されたとわかったら、お前泣くだろう。昨日だって、俺の腕の中で泣いてた。可愛くて可愛くて、守ってやりたくて。昔に比べたら、随分身体を鍛えていたことは、ビビったけど。誰かからあゆみの端末にしきりに着信が来ていたが、絶対に出ようとしなかった。目の前の俺に愛されることばっかり考えていたのだろう。
「さよなら」
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