今日もギターを背負っている背中を見つめる(EPISODE 文香)

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今日もギターを背負っている背中を見つめる(EPISODE 文香)

今日も彼はギターを背負いながら、長い長い坂道を登っている。7月の暑い暑いこの時期に汗を流しながら。 「藤崎くんっていつもギターを背負って登校しているよね」 「ああ、藤崎ってあのギターを命より大事にしてるらしいよ? 叔父さんに貰ったとかで」 「叔父さん?」 「なんか、有名なバンドのギターボーカルだったんだって。親世代のバンドだからうちは知らないけど」 藤崎くん達のファンである友人から彼について聞かされる。 彼はバンドのギターボーカルなだけあってモテるみたいだけど、女子と話しているのを見た事がない。 きっと彼の頭は音楽とバンド仲間の事でいっぱいいっぱいなんだろうな。 「けど、そんなにギターを大事にしてるって素敵だね」 「文香、藤崎が気になるの?」 「ち、違うよ!」 休み時間はよく音楽を聴きながら一生懸命ノートに何かを書いていて。何かにこんなにも没頭出来る彼が羨ましいと思った。 私は全部親に決めて貰った事しかしなかったから。 だけど、もしかしたら小さな芽は既にでていたのかもしれない。 「今日はありがとうございました! またライブやる時は是非遊びに来てください」 クラスでは見せない爽やかな笑顔で最後の挨拶をする彼に私はドキドキが止まらなくなっていた。 彼の歌を聴くのは初めてだったけど、こんなに衝撃を受けるとは思わなかった。頭から彼の歌声が離れない。 私、もっと彼を知りたい……。 「藤崎くん、おはよう! アルバム全曲聴いたよ」 「あ、ありがとうな」 「私、藤崎くんの作る曲が世界一好きだなって気付いたよ」 「せ、世界一!?」 「うん、何回もアルバム繰り返し聴いちゃった。ずっと聴いていたくなる声だなって」 「お、大袈裟だな」 「本当だよ! 大好きなんだ、私」 興奮気味に話す私に藤崎くんは笑う。 「東城さんはクラシックしか聴かないと思ってたよ」 「よく聴くよ? 眠れない時に」 「えっ……そういう聴き方なの? 好きなんじゃなくて」 「う、うん。だから、藤崎くんの曲聴いて初めてこれだ!ってなったの」 「そっか、良かった」 「あ、あと! 藤崎くんが最初に歌ってたバンドの曲も聴いたよ。すごくかっこいいね」 「だろ!? 叔父さんは世界一かっこいいんだ。俺の目標は叔父さんだからさ! 久々に叔父さんの弾き語り聴きたいなぁ」 藤崎くんは叔父さんの話になると、急に瞳を輝かせた。
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