音楽だけが恋人なはずだった。(EPISODE 依織)

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音楽だけが恋人なはずだった。(EPISODE 依織)

今日もギターを背負って長い長い坂道を上って学校へと向かう。 真夏にギターを背負って坂道を上るのは地獄にも程がある。こんな時だけドラマーになりたくなる。 「依織、おっはよう!」 「愁……お前は身軽そうで良いな?」 ベース担当だと言うのに学校鞄しか持っていない苦労知らずな親友に俺は呆れる。 「だって、俺はベース学校に置きっぱだし? いい加減、お前もそうしろよ」 「良いんだよ。俺はギターが命より大事なの。学校に置きっぱにできる神経が分からないよ」 こんな辛い思いをしてまで坂を上るのはギターを愛する余りだ。正直、自分が音楽バカすぎて気持ちが悪い。 「依織はギターが恋人だもんなぁ?」 「うるさい。お前みたくチャラくないんだよ」 「依織は女の子といる時だけ口下手だもんなー」 藤崎依織、16歳。 自分の人生において大事な物はそろそろ5年の付き合いになるギターとマイクと曲を作る用のノートだけだと思っている。 中学の時からギターを始め、高校で軽音部に入りバンドのギターボーカルをやっている。 365日24時間の殆どは音楽の事で頭が一杯だ。 そして、隣にいる愁は俺の親友で同じバンドでベースを担当している。美容院に行くのが嫌いで伸びっぱなしの黒い髪の俺とは違い、ワックスで固めた赤い髪のこいつは俺と違ってモテたくてバンドをやってる説まである。 「俺と付き合いたいと思う女の子がいたら相当物好きだと思う」 「物好き、ね。結構依織ファンいるのにな……」 「ギターボーカルとして俺が好きなんだろ。尊敬と恋愛は違う」 「音楽に対してだけは自信あるのな。気になる女の子いないわけー?」 気になる女の子と聞かれて俺はドキッとする。 「べ、別に」 「あっ、怪しい」 「怪しく無い! 俺の恋人はギターなんだよ!」 俺が愁に言い返すと、突然後ろから笑い声が聞こえてきた。 「本当にギターが好きなんだね」 「と、東城さん……」 俺に対して笑ってきたのはクラスメイトの東城文香クラス委員をしているクラス一番の優等生だ。 今日も黒い髪をポニーテールにしている。今日も彼女は友達と登校中なご様子だ。
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