音楽だけが恋人なはずだった。(EPISODE 依織)

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「藤崎くん!」 だけど、一人には見つかってしまった。 「えっ? 東城さん……?」 ライブハウスの裏手にある駐車場に何故東城さんが? 「人がたくさんいて酔っちゃったから出てきたの。良かった、藤崎くん見つけた」 「友達は?」 「あっ、まだライブハウスにいたいって言うからバイバイしたの」 「そうか。大丈夫だった? 激しい曲だとモッシュやばいし……」 「だ、大丈夫! 楽しかったよ? 普段ご縁がない世界だから新鮮で」 まあ、縁はないよなぁ。 「楽しめたなら良かったけど」 「あ、あの……藤崎くんにお願いがあるの」 「ん?」 「し、CD買いたいのだけど……すごい人だかりで。また買うチャンスとかあるの?」 「ちょうど今一枚持ってるからやるよ」 「そ、そんな! 皆、買ってるのに私だけタダでなんて……」 「良いよ、別に。クラスメイト価格でタダ」 俺は彼女にCDを渡す。 「あ、ありがとう。あっ、主人公になりたいもちゃんと入ってるんだね」 「ああ。今日やった10曲は全部入ってるな」 「嬉しい……。わ、私……arroganceのファンになっちゃったみたいです」 CDを握りしめ、笑顔で言う彼女に俺はドキッとする。 「あ、ありがと……」 「ま、またライブ来ても良い?」 「あ、ああ。けど、最前列は危ないかも……」 「さ、最前列が良い! 一番近くで見たいから……」 「そ、そうか」 「う、うん。だ、だから……あの……ライブのお知らせとか貰えたら嬉しいから……携帯……」 「えっ?」 「教えてください」 「あ、ああ。構わない」 「ありがとう!」 あのライブが全ての始まりだった。文香と初めてたくさん話した始まりの日。 「藤崎くん、おはよう! アルバム全曲聴いたよ」 「あ、ありがとうな」 翌日、学校に行くと興奮した様子で東城文香に話しかけられた。 「私、藤崎くんの作る曲が世界一好きだなって気付いたよ」 「せ、世界一!?」 「うん、何回もアルバム繰り返し聴いちゃった。ずっと聴いていたくなる声だなって」 「お、大袈裟だな」 「本当だよ! 大好きなんだ、私」 文香はいつも真っ直ぐ俺に素直な気持ちを伝えてくれた。曲でしか伝えられない俺とは違う。
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