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黒は好きだ。
自分も相手も物も、全ての境目を曖昧にしてくれる。
だから安心して眠る事ができる。独りのようで誰かと一緒のような、独りじゃない安心感をもたらしてくれていた。
ある日こいつを見つけた。道端にポツンと落ちていた。真っ暗闇に光が灯った。
無機質でツルッとしてて少し重い。
時間が経つと暗くなる。自分とお揃いの色したこいつ。
少し前まではここも俺も、もう少し明るかった気がする。
あいつが生きていたころは毎日が楽しかった。世界は今よりいろんな色で構成されてた。
事故は全てを変える。あいつはもう二度とここには来ない。一緒に作った場所が無駄に広く感じる。子供が出来たら一緒に育てようと約束したのに…。
あの日から俺は全ての色を無くした。全ては黒で構成されるようになった。
あいつがいなくなってから、光は俺にあいつのいない毎日を押し付けてくる。俺も一緒にいけばよかった。今でも間に合うならいつでもあいつのところに行くよ。だけどあいつはきっとそれを許さない。
その時、黒くなったそれが突然光だした。ブルブルと震える物体。
俺はびっくりして、思わずそれを放り投げた。
それは落ちてガチャンと音を立てて光るのをやめた。もう震えることも光ることもしなくなった。
まるであいつがそれ以上考えるのをとめてくれたように思えた。
あいつを思い出して叫んでしまいたかった。もうしばらく叫んでいない。
あいつの声が聞こえないなら叫ぶ意味も理由も何も無くなった。
だけど、もう二度と会えないあいつを思いながら生きていくのもいいのかもしれない。独りで逝かせてしまったあいつに懺悔をしながらこれからを生きていくことも。
手入れを怠った漆黒の羽を広げながら、動かなくなった物体を一瞥して飛び立つ。
…もうここには戻らない。
悲しみと悔しさ、理不尽に対する怒りをごちゃ混ぜにして久しぶりに叫んだ。
この声があいつに届くように。
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