欠陥品

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「ASD、アスペルガー症候群みたいなモノなんですが。人の感情が分からないとか、こだわりが強いだとか、忘れ物をしやすい、順序が組み立てられないだとかです」  そうなのかと松雪は思うが、どうにもそれが死にたい理由になる事が分からなかった。 「あの、失礼ですが、説明ちゃんと出来ている気がするんですけど……」 「はい、たくさん痛い目を見て身に付けたテクニックです。それでどうにか生きているんですが、もう限界です」  松雪は水晶玉に手をやる。すると、幼少期の小田の光景が見えてくる。 「小さい頃は、割と賢い子だと言われてました。自慢ではありませんが。大人の言うことをよく聞く、聞き分けのいい子だと」  そうだと思い出して小田は続けた。 「後は、何でも大人に確認して、了解を得ないと不安で仕方ない子供でした」  小学校だろうか、教室と、何故か小田だと分かる子供が居る。 「思えば、おかしかったのはこの頃からですね、僕は興味のない事は本当に何も覚えられませんでした。運動会の紅組か白組かさえ忘れていました」  そこまでなのかと、松雪は思う。小さい子供とはいえ、それぐらいは分かりそうなものだと。 「そして、発達障害の特性なのですが、整理整頓が出来ない、忘れ物をする。で先生から嫌われていました」 「そうなんですか……」  松雪はそう言ったものの、整理整頓や忘れ物など気を付ければいいだけではと思った。 「僕の机だけ『台風が来たみたいだ』ってよく言われてましたよ」  力なく小田は笑う。それは気の毒に思えたが。 「それと、チック症ってのがあって。例えば僕の場合は喉をならす、目をぎゅっと瞑る、口を尖らせて左側に引っ張るってのが多かったですね」  チック症、松雪は聞いたことがあったが、今の説明を聞いて、それもしなければ良いとしか思えなかった。なので聞いてみる。 「あの、小田さん。それをしないようにするって出来ないんですか?」  小田は少しもムッとせずに回答をくれた。 「確かにしないように気を張ればできます。ですが、僕達みたいな発達障害者にとってそれは、例えるならばまばたきを、目を閉じたり開いたりを意識してやるぐらい難しいのです」 「まばたきを……、ですか」  そう言われると理解できなくもない気がする。まばたきを自分でコントロールするとしたら相当疲れるだろう。 「チックをしないようにすると、それだけに意識が取られて、他の事が出来なくなるんです」  そこまでの事なのかと、松雪は驚くが、小田が大げさに言っているようには感じられない。 「このチックは親にも注意されました。僕をこんな風に産んだ親にっ!!」  初めて小田が怒りを(あらわ)にして松雪はドキリとする。 「あ、すみません。僕にとって親は世界一憎い存在で……」 「えっと、親御さんと何かあったんですか?」 「何かと言うよりは」  そこまで小田が言いかけた瞬間、松雪の中にも感情が流れた。水晶玉のせいだ。  憎しみと怒りと、あとはやるせなさだ。 「親が!! 親が僕をこんな体に、こんな頭に産まなかったら!!」  吐き出すように、絞り出すように小田は言った。それを見て松雪はどうして良いかわからずオロオロとしていた。 「すみません、すみません……」  涙を堪えて謝る小田。 「いえ、大丈夫です……。お話の続き聞かせて頂けませんか?」 「はい、僕は小学校中学年ぐらいからイジメに会いました。空気が読めないとか、挙動不審だとか言われて……」  それと付け加えて小田は続ける。
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