欠陥品

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「大人になって、発達障害のテストで分かったんですが、僕は判断能力が低いらしく、それで運動も会話も苦手で、それが原因でトロいって言われてイジメられてました」 「イジメですか……」  松雪も軽いイジメに会ったことがあるので苦しさは分かる。 「僕の机や僕自身には『小田菌』が付いていて、触ると死ぬだとか、無視されたり殴られたりです。後はチック症の症状で挙動不審だとか言われていました」  その時、松雪は水晶に手を触れていなかったが、怒りを感じていた。自分自身と小田を重ね合わせていたのだ。 「それで、僕は……、小学6年生ぐらいの時に、自傷行為に走りました」  自傷行為という単語が松雪の頭に思い浮かばなかったので、そうだと水晶に手をやる。  次の瞬間、松雪は「あっ」と思わず小さく声を漏らしてしまった。 「リストカットとか有名な奴じゃないんですけど、僕の場合は」  自らの目の中に指を突っ込む少年がそこには居た。 「目を突いたり、押したりする行為でした。当時は自傷行為なんて知らずにやっていたのですが、落ち着くのでやっていました」  松雪は絶句した。何の罪もない少年が、何故こんな事をしなければならないのかと、同時に流れ込む不安な気持ち。 「中学になって、イジメは酷くなりました。別の小学校から来た奴らにも僕の事は伝わり、イジメに加わるようになりました」  小田は松雪から目を逸らして言う。 「学校には行ってました、親にバレたくなくて……」  分かる、その気持ち。イジメられているという恥ずかしさで言えないその気持ちが。松雪には。 「中学の事は……、思い出したくないです。地獄でしたから……」 「分かりました……」  小田は少しだけ、重い表情を緩めて話を続ける。 「高校は、遠くへ行ったのでイジメは無くなりました。でもここでも病気のせいで……」  そこまで言って小田は俯く。病気がどうしたのだろうかと松雪は気になってしまう。 「得意な教科はいい点数を出せるのですが、苦手……、と言うより興味の沸かない教科が物凄く駄目で」 「俺も苦手な教科はありましたけど……」  そう言うと、小田はうーんと言った後に答える。 「僕は、数字をそのまま数字として認識する能力が無いみたいなんですよ」  どういう事だと松雪は思う。数字を数字のまま、意味が分からない。 「その、例えば1+1って問題があったら、普通の人は数字をそのまま数字として捉えて2って計算するらしいのですが」 「はい」  松雪はいまいちピンときていなかったが、生返事をする。 「僕の場合、頭の中に1っていう数字を思い描いて、それを頭の中で動かしてくっつけないと計算が出来ないんです」  どういう事だと松雪は考える。が、答えが思い浮かばないので正直に言った。 「すいません、いまいち分からないです」 「いいえ、良いんです。狂っているのは僕の方なので」  はぁっと小田はため息を付き、顔に出さないが少し松雪はイラッと来た。  「僕の場合、どんな簡単な計算も頭の中で描いた数字を動かさないと出来ないので、数学が物凄く苦手でした」  松雪からの返事が無いまま、小田は語り続ける。 「それで、大学へ行くのは難しかったので、短大へ行きました。短大での出来事は……、あまり覚えていないです」 「そうなんですね」  そして小田は苦しそうな顔をして話しだした。
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