《温泉》

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《温泉》

 森のなかを進んでいき蜂蜜のような良い香りがしたかと思えば、ルゥは視線を上に向けた。  頭上高くそびえ立つのは蜂蜜の香りがし湯気が立ち込める――天然温泉であった。  ルゥは先導を切って羽を震わせた。 「うわぁ~お風呂だ! 久しぶりのお風呂だ!」 「おぉ、あったもんだな……って風呂ってなんだ?」  こけそうになったルゥと衝撃的な顔をするケイではあるものの、当の本人は「水浴びしかしたことねぇんだよ」悪気のない顔で頭を掻いていた。  ルゥがライを引き連れて階段を上がる。 「だったらなおさら良い思いさせないとね。よし、ケイ! 一緒にお風呂のマナーを教えてあげようね」 「う、うん……」  実はルゥの裸を見るのを躊躇(ためら)っているケイではあるが、気にせずにルゥはライと共に脱ぎだしていく。ケイも負けずに脱衣して皆、ふんどし姿になった。  ルゥの羽が歓喜で震える。そして白潤に包まれたベールを――脱ぎだした。  眼前には巨大なイチモツがルゥの股間にぶら下がっていた。ケイは青ざめたがライは違うようだ。 「お~、お前意外とでかいんだな。胸じゃなくて股間触っとけば良かった」 「……あのね。一応気にしているんだからあんまり言わないでよね。って、ケイ? 挙動不審になっているけれどどうかしたの?」 「あ、いや……なんでも、ない」  自分よりもでかすぎる局部に肩を落としたケイではあるが、ルゥは気にも留めていないようだ。  通常サイズのライ自身は布を腰に巻いたかと思えば、ルゥに待ったを掛けられる。 「入る前にお湯を浴びるんだよ。それから布は巻かないの」 「ふ~ん、そうなのか」  ポイっと布を脱ぎ捨て、たらいのようなもので湯を浴びた。少しぬるめだが気持ちが良い。  全身を洗い温泉へと入る三人はこれからのことを話していく。 「まずは門番からだよね。そこは僕とケイでなんとかできないかな」 「まぁ良い反応がもらえたらその路線でいくか。――ケイ、お前もそれで良いよな?」 「あ、うん! それで良いよ」  湯船がぽちゃんと揺れたかと思えばライが両手で湯をすくって顔に浴びせた。  ほどよく気持ちが良かった。 「ライ、初めてのお風呂は気持ちが良いでしょ?」  ルゥがにこりと微笑めばライも強く頷く。確かに温かい風呂は気持ちが良かった。このまま泳ぎだしたいくらいだ。 「でも、地獄の門番が俺らの言うことを聞く可能性がないとも言えないぜ。そしたら――やっぱり戦闘?」  ケイの言葉で浮足立っていた気持ちが沈む。噂では馬鹿強いと言われている地獄の門番だ。  果たして自分たちが相手になれるかと思うと武者震いをしてしまう。ルゥの羽がふわふわと上下に揺すった。 「大丈夫だよ。僕たちならきっと乗り越えられる、――ねぇ、ライ」  その自信はどこから来るのだろうかと思いつつ、ルゥの言葉に強く頷くのだ。
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