《切なさと決意》

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《切なさと決意》

 レレの言葉が衝撃的過ぎてどういうことかを聞きたかったが「僕は天国に逝きたいんだ」真剣な熱量で訴えてきた。  普段は柔和で物腰柔らかなレレがこんなことを言うのは初めてであったので驚きを隠せないライではあるが、遺言のようなものを残したいのだとなんとなくわかってきた。  レレはもしも自分が受刑者となってしまったらライに殺されたい、いや――ライに自身を葬って欲しいのだ。それだけ信頼を置いているのだ。 「レレ……、まぁでもそうだな。――お前が天国に逝けるのなら買って出てやるよ」 「あは。……ありがとう、ライ」 「ズルいっす~。俺も天国に逝きたいっす!」 「なんでお前も乗っかるんだよ……」  レレが傍らで微笑み、タキが駆け寄って来てライの隣に座り込んだ。それから天国は本当にあるのだろうかなどと話をした。  そんな二人が受刑者となり、しかもゾンビにもなってしまった。自分が二人を守れなかったからだ。  ライは瞳から涙が溢れ、己の勝手を呪う。だがゾンビ化した者の末路は――怪物だ。 「なんだよっ、くそっ! ――くそぉぉっっっ!!!!!!」  ライは跳躍し、まずは倒れ込んでいるタキの首を狙って真一文字に切り裂いた。血飛沫が飛び去り、タキがぐったりとする。――だがとても満たされた顔をしていた。 「ルゥ! あとで火を使うから焚いてくれ!」 「え、あ、うん!」 「ケイ、そこどけぇぇっっ!!!!」  反転しなにもできずにいるレレの首筋を狙う。――レレが口端をゆっくりと半円に描いた。その表情が忘れられなかった。二人のそれぞれの表情が……ライの胸を蝕んだ。  気が付いたら血だらけになっており、ライは涙を流したかと思えば――ぐっと堪え、急いで火を焚くことに専念する。  火はルゥの風の力で威力が増し、炎となった。 「ケイ。こいつらを……俺と一緒に運んでくれ」 「でも――」 「早くっ!!」  有無も言わせぬ態度でライは血を流しているレレを担ぎだした。するとケイも複雑な表情を見せてはいるがピクリとも動かないタキを背負い、炎の前に立つ。 「こいつらを……天国へ」  レレをそっと離し、タキも離れるように炎へ抱かせた。灼熱の業火に焼かれた二体に憐れみを持ったライは血の付いた短刀を普段のように乱雑に扱わず、真紅に染まった刀を見つめる。  ぼぉぼぉと燃え盛る炎のなかでライは刀と炎を見つめて疲弊の息を吐いた。もうこんな旅など続けたくないなどと思ってしまうほどだ。 「ねぇライ。あの二人は天国に召されたよ」  隣にルゥがにこりと微笑んで座らせる。そしてライの頭を優しく撫でた。 「ライが頑張ったから二人は先にオアシスよりも無上尊(むじょうそん)な世界……天国に逝ったはずだよ。この努力は君がこの旅を続けてきたからだ」 「……なにが言いたい」  ルゥが意を決するように「この旅を続けるんだ」はっきりと言い張った。 「がしゃどくろを倒して地の龍に会いに行ってミキを倒すんだ。そして、――この地獄を変えるんだ」  その言葉にライは目を見張り両目から雫が零れ落ちた。何度も零れ落ちて……傍らで見守るケイと共に夜を越した。
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