《白髪の少女》

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《白髪の少女》

 湖にぽたりと落ちたその物体は輝いたかと思えば、――突如として人間の形に変化した。ルゥよりも長く白い髪に白い肌、さらには素っ裸であるのでわかるのは……。 「こいつ、――女、か?」 「……っえぇ!???」  ライが湖に浮かんでいる少女を手繰り寄せ担ぎ上げれば、ケイが真っ赤な顔をして目を逸らしてしまう。だがルゥはなにか羽織る物はないかと湖に飛び込んで探していた。  ルゥは羽を震わせてなにかを掲げた。 「なんかあったよ~。布……みたいなものが浮かんでた!」 「よし。じゃあその布でこいつに着させてやろうか。――ケイ、なに顔赤くしてんだよ。ただのガキじゃねぇか」 「ガ、ガ……ガキって! この子、女の子だよっ?」 「女でも胸もねぇぜ? ほら、こんなにぺったんこ――」 「触るな」  鶴のような一声に三人は一斉に振り向いた。真紅の瞳をした卵型の顔をしている少女は胸を触ろうとしたライを払いのけ、自力で立ったのだ。  ルゥが慌てた様子で布という名の羽織を彼女に着させた。 「ごめんね! ライが失礼なことを……。ほら、ライも謝って!」 「はあ? なんで――」 「謝って」  射抜くようなルゥの視線に耐え切れず、ライは苦悶した表情で「すまん」謝罪をした。少女は羽織を着て真紅の帯を結んだ。 「素直に謝ることは良いことじゃぞ、坊主。褒めて遣わす」 「はあ?」 「そしてそこの金色のそなた。お主もあっぱれじゃった」 「え、あ……はい」  ライが不機嫌そうな顔をし、ルゥが困惑した表情を見せた。不思議な少女は構わずに「あそこに居るのは退屈だったんじゃ……」切なげな顔をした。 「我はあのがしゃどくろの核での、意思を持った心臓じゃったんじゃ。だが怨念の数が次第に増えて――遂には我の身体を生み出してしまってのぉ」 「は、はぁ……」  ルゥが一応、相槌を打っているがライやケイは困惑しどういうことなのかわからない様子である。というか、この古風な少女は一体何者なのだということが三人の総意であった。  ライが頭を振って呑気におしゃべりをしている少女と対面する。 「その前によ、お前は何者で名前はなんだ? 変な言葉使いやがって」  少女の赤い瞳が瞬いて横に向けた。 「お主の方こそ名前を言わぬか、愚か者。名を名乗れ」  ライのこめかみに怒りマークがついた。 「てめぇ……。みょうちくりんな言葉で言っているけど、命令しているよな?」 「命令ではない、名を名乗れと言っておる」  古風な少女の言葉にライは舌打ちを打ったかと思えば「……ライだ」小さく呟く。自分よりも小さい少女に(たしな)められて、悔しそうな顔をしているライに少女は満足げな顔をした。 「名前は――お主が付けてくれぬか?」 「……えっ?」  長い白髪の髪をなびかせて少女は微笑んだ。……美少女の顔をしていた。 「お主が我の名前を付けてくれ。お主が我にとって初めての友だからのぅ」  間延びした言い方でライは少女に名前をせびられてしまったのだ。
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