《針の山》

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《針の山》

「もう我はがしゃどくろではない。ミナじゃ、愚か者」 「な、がしゃどくろの分際で――」 「(ぬし)の名は聞かずとも良い。地の龍を呼べ」  命令口調で話し出すミナに堪忍袋の緒が切れた犬ではあるが、ミナには効くことはない。滔々(とうとう)とした口ぶりで話し出していく。 「早くせぬか。だったらルゥが言っていた牛と豚を呼べ」 「な、なんだよ……もう!」  文句を募らせながら牛と豚を呼びに行く犬の姿をケイやルゥが呆然とした様子で見つめていたが――ライは違った。  ライは近寄ってミナの頭を撫でたかと思えば「よくやったな」悪戯に微笑んだのだ。 「あの犬を従えたのは上等もんだ。これからもこういう形でやっていこうな」  そう言って微笑んだライにミナが自慢げな様子で「任せるのじゃっ!」はっきりと言い放った。ルゥの羽が縮んだように思える。 「ライもやめてよ……。教育上に良くないのに」 「地獄に教育もクソもないだろ。まったく、これだからオアシス育ちは……」 「それまったく関係ないからね」  ツッコミを入れつつもライの図太さとしたたかさには感心したのは内緒だ。仲間のミナに優しくしているのには少し羨ましかったのも内緒である。  まもなくして犬の門番が牛と豚を引き連れてやってきた。彼らの額には汗を掻いていた。 「が、がしゃどくろを倒したというのは誠か、黒髪のクソ坊主!」 「ライだ。がしゃどくろを倒したのはマジだぜ。――なぁ、ミナ?」  ミナが手を挙げた。 「本当なのじゃっ! ミナががしゃどくろの本体じゃからのぉ」 「こ、このチビが……がしゃどくろの本体?」 「無礼ではないか、牛っ! 我はミナじゃっ」 「は、はいっっ!!」  牛が小娘のミナに圧倒されて敬礼する。すると豚も犬も敬礼をした。  ライが短剣に手をそっと差し入れた。 「んで、俺たちはがしゃどくろを倒したんだ。――これで地の龍には会えるよな、豚野郎?」 「豚野郎ではない! だから我は――」 「早く決断出さねぇとてめぇら血祭りにあげんぞ」 「血祭りじゃあ~!!」  ルゥが深い息を灯しケイも苦笑をするなかで門番たちはひそひそと話をしだした。どうやら言いにくい内容のようだ。だが言わなければ――ライに血祭りにあげられる。  そんな恐怖と戦ったさなかの決断であった。 「地の龍様に会いに行くには”針の山”を登らねばならぬ」 「……針の山、だと?」  怪訝な顔をするライにルゥは先手を打った。 「針の山に登れば、今度こそ地の龍へ会いに行けますか?」 「まぁそうだな。地の龍様に近い存在には会えることを保証しよう」  豚がそう告げると今度はライが眉間に皺を寄せ「殺す……」短剣を示して八つ裂きにしようとしていたが、ケイに首根っこを掴まれていた。  そんな豚や牛、犬が安堵したところで一行は目の前にそびえたつ針の山に視線を向けたのだ。
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