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《登山》
一行はそびえたつ針の山を見つめた。いかにも痛そうだ。ケイが苦悶の表情を見せる。
「あの針山に登るのか……。こりゃあ困難だな」
「コンナン? よくわかんねぇけど、あの針山に登ったら地の龍に近い奴に会えんだよな、そこの三兄弟?」
「誰が三兄弟だっ!???」
豚や牛、犬が眉間に皺を寄せて威嚇していたのだが、ライは軽くあしらっていた。恐れ多い地獄の門番を軽くいなせるのはライとミナぐらいだろう。
針の山は周囲が太い針に突き刺さっており少し長さがある。ここを足場として乗り越えて行くしかない、四人はそう踏んだ。
ルゥは羽を広げて考え込むような視線を向けた。
「じゃあミナは誰かがおぶって行こう。唯一の治癒能力を持っているから怪我をしたとしても治してくれるだろうし、それに女の子だからね」
「ミナも登れるのじゃっ!」
「ミナは体力温存のためにおぶられていようね」
ルゥのはっきりとした物言いにミナはぽかんとしつつも「わかったのだ……」そう言って――ケイに近づいた。
「え、俺がおぶるの?」
ミナが頷いて見せればライが閃いた。
「あぁ、お前がおぶればそれで良いな。ミナ、ケイにおぶられていろ」
「わかったのだ!」
そして背中におぶられるミナにケイは「まぁいっちょ頑張るか!」意気込んだ様子であった。
さぁ出発をするぞというところでライがしゃがみこんでルゥへ声を掛けてきた。ルゥは首を横にすると「お前もおれにしがみついていろ」命令口調で告げてきたのである。
ルゥの羽が震えた。
「え、な、なんでよ!? 僕だって登れるよ」
「登れるにしてもミナの回復能力は何回も出せねぇ。――だったら、俺がお前をおぶっていった方が早い」
「……君が、――ライが死んじゃうかもしれないよ?」
ライが不敵に笑った。
「安心しろ。そこまで落ちぶれちゃいねぇよ」
その瞬間にルゥの羽が震えた。
「あっそ。……まったく、かっこいいんだから」
「なんか言ったか~?」
「別にぃ~。なにも言ってないよ」
そんな会話をしたのちにルゥをおぶったライと、同じくミナをおぶったケイは針山に足を掛けた。釘が刺されたように図太く刺さってはいるが先端が注意だ。
慎重に足を掛けて行き先端ではなく針の中央付近を目掛けてぐっと乗り越えていく。だが途中でライが先端に触れてしまい血を流してしまった。
「ライっ、平気?」
「このぐらい……屁でもねぇぜ。ケイ、お前は平気か?」
「ちょっと脚と手を怪我した……かな」
「だったらミナに回復してもらえ。ミナ、俺は良いからケイを早く」
「うぬっ!」
ケイがミナの治癒で施しを受けているさなかでルゥは歯がゆい思いをした。ライのことだ。恐らくほかの仲間の体力を温存したくてこのような措置を取ったのだろう。
――だがあまりにも自己犠牲すぎるではないか。
ルゥはそっと耳元で囁いた。
「僕の翼が元に戻ったら、君をオアシスまで連れて行くからね」
「はぁっ……、なに、急に……?」
「絶対だよ、約束するから」
真剣なルゥの言葉にライは耳を傾けながら登っていく。――手も足も血だらけになっていた。
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