《二つの願い》

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《二つの願い》

 ルゥが巻き起こした不意打ちの突風に遮られ、ライは怒鳴ろうとした瞬間――ルゥはすぐさま跪き頭を下げた。 「申し訳ありません、”シキ”様。ライの無礼をわたくしがお詫び申し上げます」 「はぁ? なに言ってやがる。お前、こいつの知り合いなのかよ」 「ライ。この方はミキ……いや、ミキ様の弟(ぎみ)だよ」  まさかの弟の登場に驚愕し口をあんぐりさせるライにシキは二人に目を向けた。 「小僧、いや……ライと言ったか。先ほどの攻撃は見事であった。俺を本当に殺しに来ようとする勢いが凄まじかったな」 「あ……うす」 「ルゥ。お前も久しぶりだな。共に風使いの修行をした以来か?」 「はい。それ以来だと思います。……まさか、地の龍がシキ様だとは思いも依りませんでしたが」 「俺ではない。俺は地の龍様の側近だ」  ルゥとライが互いを見合わせてからシキを見る。するとシキは水晶に近づき手をかざしてからなにかを唱えだした。  ――すると投影されたのはいかにも厳格そうだがやつれている親父の姿であった。髭をたくわえ、筋肉をむき出しにした羽織を着ているが情けない顔をしている。  スーツのような服を着たシキとは打って変わった格好であった。 「そこの黒髪の青年よ。味方ではあるがシキを倒そうとした姿勢は見事であった。だが、金色の青年も見事だ。風を上手く操っておる」 「おい、じじぃ。お前、――誰?」  すべての人間が。ここに居る全員が思ったであろう。――ライは無礼でかなり鈍感であると。 「ち、地の龍様、お許しをっ! この馬鹿でアホで変なところで抜けている馬鹿は放っておいてください!」 「あ、ルゥ! 馬鹿って二回も言ったな。あとで覚えておけよ!」  ルゥがライの頭を掴み上げて下に向けさせた。せっかくの機会が台無しになる前にこの粗野で乱暴な青年の言動を止めずにはいられない。  側近のシキも眉間に皺を寄せているが、地の龍は明るく笑っていた。 「はっはっは! 久しぶりに笑ったわい。まぁ今回だけは許しておこう。……それで、お前たちよ。私になんの用があってここまで来た」  ケイは口を噤み、ミナはケイ背中で眠り、ライはルゥに片手で口を制されてなにも言えないでいるところで――ルゥはやっと言葉にできた。 「わたくしは突然、ミキ様に羽を折られて地獄にやってきました」 「……なんだと?」  血の龍とシキが驚いて目を見張っているがルゥは言葉を走らせる。 「わたくしの願いは二つ。一つはわたくし……いえ、僕の羽を取り戻してオアシスへ帰ること。もう一つは、――友の、ライを地上へ帰すことです」  ルゥの凛としてはっきりとした口調にライは呆気に取られたかと思えば、疑念が生まれていた。  ルゥに自分が地上に居たことを話した覚えがなかったからだ。だがそれはルゥの次の言葉で判明するのだ。
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