《翼を広げて》

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《翼を広げて》

 鋭い視線を向けられたシキは軽く頷き「兄の目的がわからないのだ」同じく鋭い視線で見つめ返した。 「兄は今でも天の龍に仕えているのある。それにがしゃどくろを開発したおかげで怪物が出現するようになったが、門番の言うことは聞いていた……はずだった」  言葉に詰まるシキにライは納得がいかない。なにが門番の言うことを聞くだ。聞かなかったからがしゃどくろと対戦し、ミナが生まれたではないか。  眉間に皺を寄せるライにルゥが横から入り「僕たちがミキと会いに行きます」皆が騒然とする。 「そんなの危ないだろ! そのミキって奴、ルゥの羽を折ったんだろ?」 「ルゥが危ないのだ!」  俺の心配はないのかなどと寂しい思いを抱くが、ルゥはライに視線を向けてにっこりと笑みを浮かべた。 「ライだけ行かせるのは忍びないし、ライは飛べないからね。……僕も一緒に行ってあげる!」 「シノビナイ……? まぁよくわかんねぇけどよ、――俺はこいつと、ルゥと一緒にオアシスへ行く。そんで、あのクソ野郎の言い分を聞いて殺す」 「殺すのは良くないと思うぜ……」  ケイがため息を吐いてるが「それに……」そう切ってライはシキと地の龍に睨みつけるのだ。 「ミキがどういうわけで俺やルゥを突き落としたのかは知らねぇけど、――本当のことを知るために俺はミキと話をしたい」 「ライ……」  呆然と見上げるルゥにライもまた不敵に微笑んだ。 「俺たちはミキに繋がれた絆で結ばれたのかもしれないな。……ま、こんなよわっちぃけど……まぁ、頼りになる奴と組めて……まぁ、良かった」  言葉を言い終えた途端に顔を逸らし天井を仰ぐライにルゥの羽が震えた。ライがいつにもなくデレているのだ。カメラがあったら撮っておきたいぐらいだ。 「――ふふっ! ありがとね、ライ」 「……おう」  まだ頬を染めているライにルゥは軽く抱き締めた……かと思えば「じゃあ、僕に身体を委ねてくれる?」にっこりと微笑むがライは疑問を感じた。 「ユダネル? (ゆだ)っているってことか?」 「違うよ。……身体を預けてって意味。あっ、でもその前に門を開けないと」 「大丈夫だ。それは俺がやろう」  シキが風の力で扉を開け放った。強く降り注いだ風によろむければ、ルゥが身体に触れて拘束し――翼を広げる。  バサァァァっっ!!! 黒と紅のグラデーションに彩られた翼は力強さを感じる。純白の羽も十分美しくて良いものだが、これまでの険しい旅の表れかと思うほど筋が通っていてしなやかだが畏怖さを伴わせた。 「さぁ、行くよっ! ライ!」 「え、あ、まだ心の準備が――」 「ミナ、ケイ、シキ様、地の龍様! 行ってきます~!」  翼を広げて抱えられたライは皆からの応援を背に飛行され、ルゥはどこか楽しげな様子だ。  ――ライとルゥの二人の旅はまだ達成をしていないのだ。
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