《隠ぺい》

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《隠ぺい》

 机に向かって書物を読んでいた。良い風だ。――だがこの痛む右腕を癒せるほどではない。  ミキは自身の枯れ木のような腕をたくし上げた。徐々に呪文のようなものが刻まれつつある。十年以上前に発覚して以来、隠し続けていたが……もう時間の問題だ。  ふと風がカーテンを押し上げた。強く強靭な風にミキは顔に笑みを灯す。 「あぁ……、もうすぐ二人が来るのですね。長かった、ここまで長い道のりだった……」  ミキは読んでいた本をそっと置き、自室を出た。  本のタイトル名は『病原菌の自滅』であった。
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