《旅の前》

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《旅の前》

「オアシスって……あの、天空の世界のこと!??」 「マジかよっ!?」  レレもタキも驚愕をしてスープを吹き出しそうになっていたが、知っていたライは「オアシスではみんな天使様なのか?」逆に尋ねてきた。  ルゥは首を横に振る。 「えっと……、管理者って職種があってそういう人は翼が生えているんだ」 「……ふ~ん」  スープのおかわりをしたライがつまらなそうな顔をしたかと思えば舌打ちをする。タキが興味津々の様子だ。 「どうしたんすかっ! やっぱりオアシスの出身なんてムカつくっすよね!」 「そうじゃねぇよ。――アイツも羽が生えているのかと思うと寒気がしただけだ」 「ミキには羽が生えていなかったよ」  ライが目を丸くすればルゥが想起して話し出す。 「ミキは飛ばずとも強いからね。本人も『自分は成りあがって来た者だから生やす必要はないよ』とか言っていたかな」 「――ッチ。なに余裕ぶっこいていんだよ、あの長髪眼鏡は」  お椀を片付けて鍋を洗いながら「殺してやる……」恨み言を放つライにルゥは彼の気持ちを考えようとする。  タキは大剣を研いでいたので双眼鏡を磨いていたレレに「ライはどうしてここに居るの?」そう尋ねたのだ。  レレが困ったように微笑んだ。 「ライはもともと地上に居たんだけど師匠に突然、地獄へ堕とされたらしいんだ。理由もわからずにね」 「そうなん……だ」  ミキがどうしてライまでも地獄に堕としたのかわからないルゥではあるが気持ちはわかった。  地獄は極悪人も堕ちるが冤罪者も堕とされることも多い。理由はわからない。  だがその冤罪者が受刑者となれば地獄の力が増幅し、地上の世界やオアシスと超越されつつあるというのも問題視されていた。地獄の力が上になるということだ。  しかも地獄に住んでいる地の龍の力も地上やオアシスに敵愾心(てきがいしん)を抱いているという噂をしていたのも管理官のときによく話題に上げていた。 (ん……、待てよ?)  ルゥの頭のなかでなにかが閃いた。自分の翼についてのことだ。 「ねぇライ、地の龍って地獄のどこにいるかわかる?」 「地の龍か? 地獄の門を出て本物の地獄に繋がる場所に居るな」  お椀と鍋を洗い終えて短刀を眺めていたライにルゥは目を輝かせる。 「地の龍に会いに行こうよっ! いや、それしかないよ」 「……地の龍まで行くのには死ぬほど強い地獄の門番が居るぞ?」  ライが太い息を吐いている。地獄で生活をしているのだからこの世界の秩序など知りたくなくても知ってしまう。  だがそれでもルゥは折れた羽を震わせてにっこりさせた。 「僕たちならできるよ。君だって憎いミキへの悲願も叶うし、僕の翼が直ればオアシスにだって連れて行けるし!」 「ヒガン……? まぁでも、オアシス、か……」  地上の世界には居たことがあったのでどういう感じなのかはおぼろげだが覚えている。しかしオアシスは別だ。  あの本物の天国でさえ匹敵するほどの世界のオアシスに――興味を抱かないはずがない。 「君の復讐劇も良いけれど、楽しみもあって良いでしょ?」  ルゥが羽をパタパタさせる。嬉しそうに微笑む。それに(なら)ってライも薄く笑みを浮かべた。 「オアシスには案内してくれるよな、天使様?」 「ルゥって呼ばなきゃ案内しないよ、――ライ」  ルゥが手を差し伸ばした。絹のようなその手に触れる。 「じゃあ頼むぜ、――ルゥ」 「こちらこそ」  二人は互いに微笑んだ。そしてルゥの怪我が治るまで、ライは修行に励むのだ。
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