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 心地よく乾いた、一定リズムのそれに耳を傾けていれば、雨も苦痛も忘れて、自然と眠れた。  いつもすれ違う私たちにも、揃って元気な瞬間があった。  それは、晴れた日の夜。  ふたりにとって天敵のいない、パーテーションもよけられ、誰にも何にも邪魔されない、ひととき。 「南くんは」  そんなある夜、消灯後、思いきって話しかけた私に、彼は隣のベッドで背を向けたまま「陽でいいよ」と返した。 「嫌いなんだけどね、この名前。紫外線アレルギーなのに太陽の陽なんて。苗字も一文字だから、並べると韓国人みたいだし」 「あぁ、分かる。私も雨宮って苗字、嫌いだもん」 「ほんと、なんの意地悪だよな。けどいいじゃん。苗字は結婚したら変えられる」  結婚、という単語にどきりとしたのはなぜだろう。恥ずかしくなって私も背を向ける。 「陽くんは、いつもなに読んでるの?」  あらためて尋ねると、彼は数名の文豪を挙げた。 「すごい……」  思わずこぼしたら、彼は「そんな」と謙遜したけれど、少なくとも私は読んだことがない。 「ほたるは、写真が好きなんだね」
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