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 彼はさらりと私の名前を呼んだ。嫌じゃなくて驚いた。私の唯一の趣味に気づいていたことにも。  私は、インスタントカメラで窓の外を撮るのが日課だった。 「私、ずっと病院にいるでしょ? でも、毎日景色を撮って空の色や雲の形が変わってるのを見ると、ちゃんと昨日とは違う日を生きてるんだって、思えるの」  彼の夢は小説家だというので、デビュー作のカバー写真を撮る約束をした。  それから、アレルギー体質特有の苦労話で盛り上がり、私は真の理解者を得た気分になった。  冬頃、彼の退院が決まった。  なのに、私は体調を崩してICUに入り、見送りできなくて。  私たちはいつもすれ違う。再入院しても、私の病室には戻ってこないだろう。  彼の場合、症例も治療法もある。似た立場であれ、すべて同じわけじゃない。  なんて独りで腐りかけていたら、看護師さんから、彼が残していった住所のメモを渡され、ちょっぴり泣いた。  今日は、一刻も早くあなたに伝えたいことがある。  これもきっと、ふたりの未来につながるから。  痛みをこらえ、必死に書いていると、急に晴れ間が見えた。  *
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