届けたいカセットテープ

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「お前、来るんだったら連絡しろよ。席用意しとくから。」 「やだよ、友だちだからってズルしたくない。傑のお客さんに悪いよ。」 ズルって。昔からそうだ。誘ってもはぐらかされて。前売り買ってくれなくて、いつも当日券で。 小さい箱でも、多少大きい箱でもいつもそうだった。 「昨日最前にいた子たちみたいなお客さんどんどん増やしていってよ。 俺は古参でこれからも応援するけど、『不時着』に新しいファンが増える方が嬉しいよ。どんどん遠くに行ってくれ。」 いつの間に、コイツ。少しだけ大人になって。 「なあ、聡。」 「うん?」 「お前にこれやる。お前にこれ届けたくてきょう、ここに来たんだ。」 ポケットにしまっていたカセットテープを聡に差し出した。掛田中に聡がいること知ってたって、気づかれそうなのに。聡は全く気にも止めずカセットテープを見つめている。 「カセットテープ?へえ。」 「昨日の新曲で『不時着眼鏡と皺加工』メジャーデビューだから。内緒な。」 「昨日の…新曲。あー、あれか。」 「そう。」 「ウォークマン買って帰るわ。電気屋さん行くのだるいけど。」 バッグから箱に入ったままのウォークマンを出した。 「あげる。これ。」 「なんで?」 「せっかくお前のために吹き込んできた音源、一生聴いてもらえなかったら悲しいだろ。 ウォークマン、お前絶対買わない気がするし。 カセットテープの音はその1本以外どこにもないんだからな。ちゃんと聞けよ。」 「じゃあ、借りとくわ。今度会った時に返す。」 つまり、それ。また会う約束? 「ありがとうな。曲の感想、LINEするわ。」 コイツの距離感。昔から難しい。 「感想、待ってるわ。つか、カラオケとか遊びに行こう大学の頃みたいに。」 「いいよ。お前が実家来る時にでも。俺、しばらく掛田にいると思うから。」 「わかった、誘うよ。」 「おう。」 聡は、ヘラヘラ笑って。あの頃と変わらない雰囲気でウォークマンとカセットテープを手に職員室に戻っていった。 再会はあっけなかった。
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