届けたいカセットテープ

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「ん?」 侑が、パソコンの画面に近づいた。 「…“2024…掛田中学校 福島県伊達市。指揮 初澤聡先生”この人?傑。」 そこには、中学生に囲まれた初澤(はつさわ)(さとる)が映った写真が貼り付けられている。 てか、なぜ体育ジャージ?コスプレ? 「…聡だ。ははは。全然変わってない。」 当たり前か。大学卒業してまだ3年目だ。 元気そうだ。 きっとアイツなりに教師を楽しんでるんだろう。 俺ももっとがんばらないと。 てか、掛田中。俺の母校だ。今年度で廃校になるって地元にいる友だちから聞いてはいたけど。 なんだこれ。どんな巡り合わせ? 「…ふっ。」 思わず笑うと侑が不思議そうな顔をした。 「なあ、今度のツアー福島行くよな。」 「ん?行くけど。」 「聡に会いに行けば?傑。」 ツアーで回るライブ会場は福島市。霊山町掛田は伊達。車で30分くらいで行けるけど。 「いや、他のみんなに迷惑かけてまでそんな。」 「傑の地元じゃなかった?」 「侑、何企んでんだよ。」 「俺らツアー後メジャーデビューじゃん。」 「地元のやつらなんか俺たちのこと知らないよ。」 「いやいや、トモダチに会いに行く立派な理由だと思うんだけどな。メジャーデビューするからって、一足先に音源渡してやれよ。 プレミアもんだろ。俺たち、絶対にレコ大新人賞取るんだから。」 レコ大新人賞…。狙うべきものであるのは間違いないけど。 侑がバッグから四角いもの出してを俺に押し付けてきた。 「何?」 「見たことない?カセットテープ。」 「どうやって聞くのこれ。」 「な?興味湧くだろ。」 インディーズでも、CDは出してる。それにSpotifyでもApple Musicでも俺たちの音源は聴ける。アルバム名は、『曇り止め』。ダウンロード数も伸びている。 YouTubeでいちばん再生されてるのは、『スーパー撥水加工』 「…CDじゃだめなの?」 「ありきたりじゃ、押し入れの奥にしまわれちゃうだろ。てか、新曲。歌詞早く作れよ。ツアーでやるからな。」 侑はそう言って席を立つ。 「どこ行くの?」 「ばあちゃんの病院。お見舞い。」 「あ、そんな時間か。」 侑のおばあちゃんは、家の段差でつまづいて転んで足首を骨折。入院している。 「…早く治るといいね。」 「東京公演は、車椅子でもくるってよ。」 「最前列決定だね。」 「逆にラッキーか?爆音で心臓止まんないかね。心配。」 「それな。」 侑が車の鍵を手に取った。 「行くわ。」 「気をつけて。」 侑を見送ってカセットテープを手にした。 アイツ、音源何で聞いてるんだろう。
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