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 まっすぐの廊下は暗い。携帯用ライトの二筋の光が、走りの上下に合わせてゆさゆさと揺れる。 「なんか、白くね?」 「E班が煙幕っつってたから、煙幕の残りかもしんないな」  D班の警戒範囲に到着するも、そこには人影がない。その場の膝から下の空気が、言うとおり白くモヤモヤとしている。いうなれば、ドライアイスをもくもくとさせているような感じだ。 「停電と煙幕で撹乱させて、その間に紛れ込んだってこと?」 「そ、そうらしいな。つーことは、実際にここ通ってったってことだよな? かたゆでたまごが」  小山内の声がどんどん尻すぼみになっていく。「そうっぽい」と声に出して返す。独りではないことをタイムリーに耳で認識させるためだ。 「ディ、D班? おい、誰かいねぇ?」  携帯用ライトで床周りを照らしてみると、横たわる人影が五人分認められた。小山内が照らし、俺が一人へ駆け寄る。 「た、髙野(たかの)さんっ!」  それは、同じ中央署地域課配属の髙野というふたつ歳上の先輩だった。慌てて起こすもびくともしない。目を閉じ、全身に力が入っていないようだ。 「髙野さん、髙野さんっ!」  何度と肩を揺すり、大きく声をかけ続ける。 「しっかりしてくださいっ、髙野さん! 髙――」 「ぐおー……すぴぃー……」 「……え」  寝、て、い、る? 「ね、寝てね?」 「やっぱそう見える、よね?」  小山内と顔を見合わせた俺は、髙野さんが命にかかわるような状態ではないとわかり心底安心した。同時に、急に冷ややかで脱力的な気持ちになってしまった。このまま髙野さんを床にズシャッと放って転がしてしまいたい。そんな冗談めいたことを思うくらいには気持ちに余裕ができた。だって、まるで酔い潰れた先輩たちを介抱するような気持ちなんだ。  ひとまず、と無線を入れる。 「えっと……こちらC班応援組。D班の持ち場に現着。なお、D班全員が煙幕の中で眠らされていました。起こすのを試みましたが難しいです。指示をお願いします」 『こ、こちらF班応援組……。C班応援組と同じです』  俺と同じ気持ちなのかもしれないF班の無線の主。俺と同じくらい気の抜けた声色だ。 『わかった。仕方ない、応援組は代わりにその場の警戒にあたれ』 『非常口を囲う方法で頼むよ』  土橋課長の指示のあとで都築巡査も柔く追加する。了承を伝えると無線が切れた。  悪いけど髙野さんにはこのまま眠っててもらおう。髙野さんから手を離し、立ち上がる。小山内が「通行の妨げになるし怪我をさせたらまずい」と言って、壁際に就寝中のD班を寄せ並べた。俺は一人で非常用出入口に仁王立ち、神経を尖らせる。  来れるもんなら来てみろ。俺がここで食い止めてやるから。そう強く思っていたんだけれど、なんだかさっきの脱力感が勢力を増してきた気がしなくもない。なんか、なんだろう、なんとなくこう……眠い、というか。  意識がとろみを帯びてきたことを自覚する頃、数歩先で小山内が崩れ落ちるように倒れた。 「お、さな、いっ!」
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