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4.
「本当なんですかね? これ」
アキトが鼻で笑いながら言った。
「どうした?」
カイは、小馬鹿にしたようなアキトの態度にうんざりしながらも問い尋ねた。
「いや、先輩。それが、どっかの年寄りが新聞で知った少年に、わざわざ自分の資産の一部を届けてあげたいって、名乗りでたらしくて」
カイはそのニュースについてはすでに知っていたが、ただ一言、「なるほどな」と返事するだけにとどめた。
「いや〜、なんかやらせくさくないですか?」
そう言ってアキトはニヤニヤ笑う。
「だっていくら新聞配達の少年に感動したからって、わざわざお金届けようとします?」
「もし届けなきゃいけないと思ったら、するだろうな」
「届けなきゃいけない? 届けたいじゃなくて?」
カイはアキトの顔を見た。
今どきの若者らしく、小さくまとまった顔は女子にモテるだろうの想像がついた。
だが一方で、アキトの顔には人生経験からくる重みはまだ感じられなかった。
人は本当に感動した時、その感動を誰か他の人にも届けなければいけないという、使命感にかられる生き物だと、カイは知っていた。
おそらく、新聞配達の少年について投書したという女性も、そのニュースを読んだ老人も、皆、心から感動したのだろう。そしてその感動を他の人にも分かち合わなければと思ったのだ。
彼らが届けなければいけないと思ったのは、単にニュースだとか、お金ではない。
それは感動なのだ。
今回は、たまたまそれが環のようにつながったので、ニュースになったにすぎない。
だがそれをアキトが理解できるとは思えなかった。
「アキト。お前、最近、本当に感動したことあるか?」
「えぇっ? 何ですか、突然」
アキトが半笑いの表情で、首を傾げる。
「いや、いいんだ」
カイがそう言った直後、緊急のアナウンスが鳴った。
それを聞いて、カイが声を張り詰めさせる。
「ミサイルの積み込みが終わったな。アキト。出発の準備をしろ。出撃だ」
「了解」
アキトは新聞を置くと、表情を一気に軍人のそれに変えた。15分後、カイとアキトには敵地に向けてミサイルを発射する任務が待ってる。
それは軍の隠語ではお届け物と呼ばれている攻撃だった。
この青年にもいつか、心から、これは他人に届けなければいけないと思える感動が見つかるといい。
そしてできれば、ミサイルだとか爆弾とかではく、別の、もっと大勢の人が幸せになれるものを届けてほしい。
走り出したカイだったが、前を走るアキトの背中を見てそう思わずにはいられなかった。
FIN
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