【1】恋は突然やってくる

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【1】恋は突然やってくる

① 「何見てんの?」 「……賃貸住宅の情報」 「何で??」 「俺、転勤になるかもしれないだろ?」  古市日向(ふるいちひなた)は、少なくなったビールをいっきに飲み干すと正面の伏見徹(ふしみとおる)に言った。 「お前気が早いねぇ」 「いや、こういうのは予め探しておかないと辞令が出てからだと遅いからさ。川崎辺りがいいかなと思ってるんだけど」 「あははは、次が本社(とうきょう)とは限らないじゃないか? 仙台かもしれないぞ」 「えっ、東北支店はないだろ? きっと本社だよ。最初に支店配属になった場合、次は本社のケースが多いじゃないか」 「あははは、そうだったらいいな。俺には関係ないけど」  日向は入社6年目で2年前に転勤で大阪支店にきたが、同期の伏見は入社以来ずっと大阪支店だった。  日向は転勤の話がでるまで、来週から3月なんて全然意識していなかった。  日向は昔から寒いのが苦手で、これが東北や北海道の支店だったら毎日大雪かと思うと大阪でよかったと思った。 「おい、今何時?」  日向が聞いた。 「えぇーっと、おっ、もう23時か」 「やばっ、もう帰ろうぜ、出社遅いって部長に注意されたんだよ。明日寝坊しないようにしないと……」
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