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③
声のする方へゆっくり顔をあげた。
「前に一度……」
彼が言った。
「いちど?」
「はい、前に一度ここで会ったことがあって…」
「あ、はい、覚えてます」
緊張で美月はうまく表情を作れない。
「覚えてくれてたんですか?」
日向の表情が緩むと、美月は「うん」と頷いた。
ちょうど停留所で美月の隣が空くと日向は並んで座った。肩が触れるか触れないくらいかの距離に胸が高鳴る。
「古市です。古市日向」
「あ、わたしは雨宮です。雨宮美月です」
お互い名前を伝えるだけの挨拶だったが二人にとっては十分な挨拶だった。
次に何を話そうか日向の頭はフル回転する。しかし、駅までたった10分の道のりでゆっくり考えている時間はなかった。
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